2014年5月24日土曜日

本屋さんのダイアナ

 
 柚木麻子 『本屋さんのダイアナ』 新潮社 1300円+税


 おっさんが自分では絶対に選ばない本。

 環境が全く違う二人の少女、ダイアナと彩子が小学校で出会って、本の話で気があって、互いの家庭を羨ましく思って、進路が違って、すれ違いがあって、家族とぶつかって……それぞれが「呪い」を解いて大人になっていく話。詳しいあらすじ紹介はこっぱずかしいのでしない。

 最後で、10年間の絶好状態が解ける。就活中の彩子が書店で働くダイアナに会いに来た。

「夕方の書店って、小学校の図書館と同じ匂いがするのね」
今まさに自分も感じていたことを、彩子がはにかみながら言う。

 彩子が、息抜きになって気分が前向きになる本をリクエスト。ダイアナが出した本は『アンの愛情』。

「『赤毛のアン』が面白いのは『アンの青春』までなんじゃなかったっけ。ダイアナ、あの頃そう言ってたよいね。恋愛や結婚がメインになって面白くないって」
 本の話をするだけで、十年のブランクが埋まっていくのが、なんだか魔法みたいだった。ダイアナはわざと仕事用の口調を選んだ。
「本当にいい少女小説は何度でも読み返せるんですよ、お客様。小さい頃でも大人になっても。何度だって違う楽しみ方ができるんですから」

 ダイアナという名前、漢字では「大穴」で競馬にちなむ、という説明なのだが、当然意味がある。彼女は小さい時から悩み続けてきた。それも実の父親に会えて解決する。

 ダイアナは小学校低学年で大きくなったら本屋を開きたいと思っていた。

「私の夢はね、本屋さんで働くことなんです。大好きな本だけ選んで、小さくても可愛くて趣味のいいお店を開くの」

 彩子に『アンの愛情』を推めて、昔のように本の話ができて思う。

……幼い頃はぐくまれた友情もまた、栞を挟んだところを開けば本を閉じた時の記憶と空気が蘇るように、いくつになっても取り戻せるのではないだろうか。何度でも読み返せる。何度でもやり直せる。何度でも出会える。再会と出発に世界中で一番ふさわしい場所だから、ダイアナは本屋さんが大好きなのだ。いつか必ず、たくさんの祝福と希望をお客さんに与えられるようなお店を作りたい。……
(平野)