■ 橋爪紳也 『瀬戸内海モダニズム周遊』 芸術新聞社 2500円+税
はじめに 瀬戸内海モダニズム周遊
第一章 公園と海 発見される「内海」 静的な内海 内海を論じる 保全と開発 多島海の景観
第二章 観光と海 国際観光と瀬戸内海 競争の海 瀬戸内海の女王 海上のホテル 周遊のモデルコース デッキのモダンガールたち
第三章 文化と海 船に乗れ 日本人 瀬戸内海を描く 伝承と観光開発 厚生の海
第四章 名所と海 観光鯛網 宮島 屋島 琴平 寒霞渓 淡路
第五章 産業と海 産業のランドスケープ 今治・四阪島 別子銅山 宇部・小野田 丸亀 尾道・因島 撫養・坂出 赤穂・三田尻・中関
第六章 都市と海 博覧会と都市 呉 鎮守府の博覧会 高松
民衆の娯楽場
第七章 温泉と海 道後 スピード時代の温泉 別府 東洋の泉都
あとがき
綴じ込み付録 瀬戸内海周遊鳥瞰図
この広い地域を「瀬戸内海」とひとくくりで見ることはなかった。いわゆる近代的視点で「瀬戸内海」に注目したのは幕末・明治の欧米人たち。「The Inland Sea」=内海と呼び始めた。大正から昭和にかけて、国際的観光地になっていく。
本年は瀬戸内海が国立公園に指定されて80年にあたる。1934年(昭和9)、雲仙、霧島とともにわが国最初の国立公園に指定された。一府十県にまたがる。しかし、当初は小豆島、屋島、鷲羽山、鞆など限られたエリアだった。何度も拡張され、現在和歌山から北九州まで。また神戸の六甲山など海に面し、海を見渡せる景勝地も含まれている。自然的美観、温暖な気候はもちろんだが、歴史的・人文的景観(史蹟、信仰、伝承、温泉、固有の生業、海・山の幸など)も豊か。近代的観光事業によって「瀬戸内海」のイメージが形成されてきた。
しかし橋爪は、このイメージが新しく創造されたものと言う。
……わが国が近代化するなかで、各地域に分割されて意識されていた物語や特徴を融合、「多島海」という上位の概念によって「瀬戸内海」という広域の心象風景が規範化された……
「瀬戸内海」というイメージが広く流布する大きな契機が、国立公園指定と近代的観光開発の進展、と言う。モダニズム研究から資料(絵ハガキ、案内書、広告など)で「瀬戸内海」の発展の様子を見る。
(平野)
営業担当Tさんからいただいた。「【海】で販売して欲しかった本」というお言葉とともに。