2014年5月2日金曜日

茨木のり子展図録

家人の東京みやげ
 『茨木のり子展』図録 世田谷文学館 学芸課編 1200円税込
目次
日々、新しい決意を  菅野昭正
茨木のり子の原点  後藤正治
いなくならない 茨木のり子さんに  谷川俊太郎
現代詩の長女――詩人への歩み・「櫂」 生い立ち  初期の詩集  金子光晴との交流 ……
新たな歩みをすすめるために――隣国語の森へ  晩学の泥棒、韓国語の森へ  茨木のり子さんとハングル[金裕鴻]  『一本の茎の上に』から『言の葉』まで ……
お別れの辞――最愛の人のもとへ その詩は、生きつづける[新川和江]  『歳月』 伯母の食卓[宮崎治]
資料編 「櫂」創刊に関する書簡翻刻  「櫂」小史(抄)[茨木のり子]  略年譜 ……



「櫂」小史(抄)より
 或る日、一通の手紙が舞いこんだ。「一緒に同人雑誌をやりませんか?」という、川崎洋氏からの誘いだった。
 時は昭和二十八年の早春、私の住所は、アメリカ軍基地のある、埼玉県所沢町。
 そして川崎洋氏の住所もまた、神奈川県横須賀市砲台山アパートという物騒さ。
 昭和二十八年春と言っても、戦後の硝煙、いまだ消えやらず、あまつさえ朝鮮戦争もまだ休戦には至っていなかった頃である。
 文面を見、封筒を眺め、無駄の一切ない簡略さながら、何かしら五月の薫風のような、さわやかさを感じさせる手紙だった。私は十日間位「どうしたものか」と考えていた。……
 329日に会って、二人で創刊号を出すことになる。515日創刊。詩2篇、「ぺらっと薄い、アート紙、六頁のもの」。120部作成で6000円かかった。
 第2号から谷川俊太郎、3号から舟岡遊治郎、吉野弘、4号から水尾比呂志が参加した。
 創刊号に載せた詩、

 方言辞典
よばい星   それは流れ星
いたち道   細い小径
でべそ    出歩く婦人
こもかぶり  密造酒
ちらんぱらん ちりぢりばらばら

のおくり
のやすみ
つぼどん
ごろすけ
考えることばはなくて
野兎の目にうつる
光のような
風のような
つくしより素朴なことばをひろい
遠い親たちからの遺産をしらべ
よくよく眺め
貧しいたんぼをゆずられた
長男然と 灯の下で
わたしの顔はくすむけれど
炉辺にぬぎすてられた
おやじの
木綿の仕事着をみやるほどにも

おふくろのまがった背中を
どやすほどにも

一冊の方言辞典を
わたしはせつなく愛している  『茨木のり子詩集』(思潮社 現代詩文庫)

「茨木のり子展」 世田谷文学館 629日まで開催

(平野)
元町商店街HP更新されています。
http://www.kobe-motomachi.or.jp/index.html

「【海】という名の本屋が消えた(6)」