2014年8月18日月曜日

天の梯


 髙田郁 『天の梯 みをつくし料理帖』 
ハルキ文庫(角川春樹事務所) 620円+

みをつくし料理帖ついに完結。

前巻紹介時に、私は「登場人物に幸せの兆し」と書いた。その幸せを具体化するのに、たとえ小説のなかでも現実性を持たせなければならない。筋道立てて、作者は読者を納得させてくれなければならない。

澪はますます料理人の腕を磨き独立して世間に認められ、源斉と結婚し、160文の鼈甲玉をたくさん売って野江の身請け金4000両を貯めて晴れて自由の身にしてあげました。つる家は皆のチームワークで繁昌しました。一柳では芳の息子の佐兵衛が料理人として戻ってきました。……

みんなめでたし、よかったよかった、それはそれでいいのだ、とは作者も読者も考えない。読者は、まだ又次の死に納得していない。そもそも佐兵衛失踪の理由は? 御典医の子息の源斉と澪は結婚できるのか? 澪は莫大な身請け金を都合できるのか? できたとしても、身請け後の野江の生活をどうするのか? ふき、健坊、それに太一の進路は? 

幸せの実体と行く末を明らかにしなければならない。そのために作者は全精力を作品に投入し、一字一句に身を削った。練りに練って、考えて考えて物語を完結させた。
 髙田はやせ細っているはずだ。でも、料理試作でたらふく食ったかもしれない。

 個人的には、前回【海】の登場があったように、今回もあるかな、とほのかな期待。坂村堂が元の番頭や丁稚に偶然会って、元気そうだったとか。あるわけがないのはわかっていても、いわゆる一つのスケベ根性

 でもね、読み終わって、さわやかな感動を覚え、特別巻の刊行があるという予告を素直に喜んだ。そして、付録の「料理番付」を見た。最後の最後にまた……「西方版元 元町海文堂」。オヤジはただ涙、のち号泣。

(平野)