■ 足立巻一 『詩集 石をたずねる旅』 鉄道弘報社 1962年4月刊
1956年「新大阪新聞」を退社して、旅行雑誌他のライター生活に。一緒に旅(仕事)した仲間たちが写真を添える。
「石をたずねる旅」
わたしは恋人をさがして歩いている。
黒いザックを登山家のようにひっかけ両手をレインコートにつっこんで。
岬の集落は
赤い石を積みあげて家をかこみ屋根にも、つけもの桶にも赤い石をおく。
それらは海底に吐き流された地熱
海流が冷やし、なめした溶岩原のかけらども。
その鉱物群の玄室のなかに
わたしたちはふたつの胴をねじまげる。
壁のしたにうずくまるけものに似て
恋人の目はよく見ひらかれ
よくこげた皮膚は蒸発する。
そうして
わたしたちは恋を語ったのだ。
遠く、恋を。
……(略)
(平野)
本書を元町の古本屋さんで見つけた時、所持金では買えなかった。本を買えば夕食のキャベツは買えない、キャベツを買えば本は買えない、という金額であった。所持金全部でキャベツを買うわけではない。1個だけ買うのだけれど、それを買えば本代に足りなかった。キャベツを優先した。後日、古本屋さんに行ったが、既になかった。古本市で本書を見つけた。またしても所持金が足りなかった。前回同様、本を買えば晩飯の冷奴が買えない、冷奴を買えば本は買えない、という金額。所持金はたいて冷奴を買いたかったわけではない。1パックだけでいいのだ……。その日は冷奴に負けた。
古本市は期限があるので、会計係の人に「明日お金を持って来るから」と取り置きをお願いした。快く願いを聞いてくださった。