■ 五味康祐 『麻薬3号』 文藝春秋新社 1957年(昭和32)9月刊(手持ちは同年10月再版) 装幀 勝呂忠
五味康祐(ごみ・こうすけ、やすすけ。1921~1980)大阪市生まれ。1953年、「喪神」で第28回芥川賞(松本清張と同時)。後、柴田錬三郎とともに剣豪小説ブームを起こす。
五味の生涯については、こちら。「石神井公園ふるさと文学館」。http://www.neribun.or.jp/web/11_bungakusya/detail.cgi?tno=8
本書は、戦後まもなくの神戸を舞台にした犯罪物。58年に日活で映画化、長門裕之、南田洋子主演。
元町駅と神戸駅の間にある北長狭通、表向きは三流出版社「文化レポート社」(大手新聞・雑誌から記事を抜き書きするだけ。実は売春・麻薬を資金源にする組織)に勤める慎二。前科持ちの麻薬中毒のインテリヤクザ。東京から彼を訪ねて来た女・啓子、織田という男を探していると言う。
省線のガード下と下山手通六丁目筋の交叉するあたりに、鉄筋コンクリートのモダン寺がある。寺の青い円塔は汽車の窓からも見える。神戸の人間でモダン寺の名を知らぬ者はあるまい。それほど附近のうす穢い家並に巨きな青緑の円屋根が聳え、明治時代、神戸が『異人さん』の町だった名残をとどめる。(原文は旧字旧かな)
五味は書き出しから「五味」として登場する。中毒者で、麻薬売買に巻き込まれる。
五味さん。あれから三年になるナ。三日前私は刑務所を出て来たばかりだが、おどろいた。われわれの仲間だった君だけが、くさい飯も喰わず、今をときめく剣豪作家におさまっている。昨日今日と、図書館に出向いて週刊誌の五味康祐に関する記事を読んでみたが、アノ事にはまるで触れちゃいなかったね。
事件の顛末を書いた手記と引き換えに金を要求される。
1950年頃、五味は実際に神戸で放浪生活をしていたらしい。覚醒剤で入院もしている。
麻薬患者、売春窟、賭場、殺人……、モダン都市神戸の裏の顔を抉り出している。
(平野)
NR出版会HP、NR版元代表インタビュー(10)風媒社・稲垣喜代志さん
http://www006.upp.so-net.ne.jp/Nrs/top.html