2014年10月4日土曜日

ドミトリーともきんす


 高野文子 『ドミトリーともきんす』 
中央公論新社 1200円+税

 コミックによる科学入門書、という紹介でいいのか? ふつうなら「科学」とついたら私は手を出せない。
 科学一般に関心があり、というより勉強した経験があり、今も熱心に本も読んでいる若いお母さんが、もし学生寮の寮母さんだったら(母・とも子さんと娘・きん子ちゃん、きん子ちゃんはハイハイからよちよちになり、お話できるようになりと少しずつ成長していく)という設定で、将来世界的学者になる学生たちの世話をしながら、彼らの文章を解説してくれる。
 彼らは専門書だけでなく、一般向けの科学随筆も書いている。

科学する人たちがいかにして科学の花をさかせたか――
彼らの視線のゆくえを、ノートや黒板の計算の跡を、
そしてその言葉をたどること。
(寮生は、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹)
日本の優れた科学者たちが残した言葉を、いま読み直すこと。
わたしたちはそこから何を知り、気づき、立ち止まるのだろうか。

 本、文章は、

朝永 「鏡のなかの物理学」「滞独日記」
牧野 「松竹梅」「なぜ花は匂うのか?」
中谷 「簪を挿した蛇」「天地創造の話」
湯川 「数と図形のなぞ」「『湯川秀樹物理講義』を読む」「自然と人間」「詩と科学」
そして、
ジョージ・ガモフ「トムキンスの冒険」 

 
「詩と科学――子どもたちのために――」 湯川秀樹

詩と科学遠いようで近い。
近いようで遠い。
どうして遠いと思うのか。
科学はきびしい先生のようだ。
いいかげんな返事はできない。
こみいった実験をたんねんにやらねばならぬ。
むつかしい数学も勉強しなければならぬ。
詩はやさしいおかあさんだ。
どんなかってなことをいっても、たいていは聞いてくださる。
詩の世界にはどんな美しい花でもある。
どんなにおいしいくだものでもある。
しかしなんだか近いようにも思われる。どうしてだろうか。
出発点が同じだからだ。どちらも自然を見ること聞くことからはじまる。
(略)

 思索は「詩作」。

 
 『ほんまに』第16号 くとうてん 476円+税

欧州ぐるっとグルメ本(1) ビートン夫人に魅せられて  中島俊郎

ビートン夫人とは?
 グルメ本だからね、Hな想像しないでね~。

……イギリスでは料理が一種の科学とみなされ、一七〇〇年代からとくに力が入り、すぐれたレシピ本が数多く出版されてきた。……

 かの国では料理レシピ本だけで200300年の伝統がある。
『ビートン夫人の家政書』19世紀後半に月刊分冊で出版され、後に単行本になった。

 聖書と並んで各家庭に常備されたほど、ありふれた本であるが、さて初版を探そうとなると、なかなか見つからない。なぜか。まず消耗品であったことにその原因があろう。……

 分厚くて重くて、使っているうちに落としたりして本が壊れてしまう。
 同時代の『種の起源』よりも古書価は断然高いそう。
 ビートン夫人は出版後、28歳の若さで亡くなったとか。若い主婦が大部のレシピ本を作れるほど伝統があったということ。

続映画屋日乗(1)  内海知香子

「映画の本」3冊紹介。

増田明彦『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』 イーストプレス
町山智浩『〈映画の見方〉がわかる本』 洋泉社
十河進 『映画がなければ生きていけない』全4巻 水曜社

陳舜臣アジア文藝館  文・石阪吾郎

 5月、メリケン波止場のそばに「陳舜臣アジア文藝館」がプレオープン。長男・立人さんにインタビューした。
 陳さんの著作・研究はアジア全体に及んでいる。日・韓・中だけでなく、シルクロードからペルシャ、アラブ、ヘブライなど、大きなアジアを常に考えている。
(平野)