■ 高野文子 『ドミトリーともきんす』
中央公論新社 1200円+税
中央公論新社 1200円+税
コミックによる科学入門書、という紹介でいいのか? ふつうなら「科学」とついたら私は手を出せない。
科学一般に関心があり、というより勉強した経験があり、今も熱心に本も読んでいる若いお母さんが、もし学生寮の寮母さんだったら(母・とも子さんと娘・きん子ちゃん、きん子ちゃんはハイハイからよちよちになり、お話できるようになりと少しずつ成長していく)という設定で、将来世界的学者になる学生たちの世話をしながら、彼らの文章を解説してくれる。彼らは専門書だけでなく、一般向けの科学随筆も書いている。
“科学する人たち”がいかにして科学の花をさかせたか――
彼らの視線のゆくえを、ノートや黒板の計算の跡を、そしてその言葉をたどること。
(寮生は、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹)
日本の優れた科学者たちが残した言葉を、いま読み直すこと。
わたしたちはそこから何を知り、気づき、立ち止まるのだろうか。
本、文章は、
朝永 「鏡のなかの物理学」「滞独日記」
牧野 「松竹梅」「なぜ花は匂うのか?」中谷 「簪を挿した蛇」「天地創造の話」
湯川 「数と図形のなぞ」「『湯川秀樹物理講義』を読む」「自然と人間」「詩と科学」
そして、
ジョージ・ガモフ「トムキンスの冒険」
詩と科学遠いようで近い。
近いようで遠い。どうして遠いと思うのか。
科学はきびしい先生のようだ。
いいかげんな返事はできない。
こみいった実験をたんねんにやらねばならぬ。
むつかしい数学も勉強しなければならぬ。
詩はやさしいおかあさんだ。
どんなかってなことをいっても、たいていは聞いてくださる。
詩の世界にはどんな美しい花でもある。
どんなにおいしいくだものでもある。
しかしなんだか近いようにも思われる。どうしてだろうか。
出発点が同じだからだ。どちらも自然を見ること聞くことからはじまる。
(略)
思索は「詩作」。
○欧州ぐるっとグルメ本(1) ビートン夫人に魅せられて 中島俊郎
“ビートン夫人”とは?
グルメ本だからね、Hな想像しないでね~。
……イギリスでは料理が一種の科学とみなされ、一七〇〇年代からとくに力が入り、すぐれたレシピ本が数多く出版されてきた。……
かの国では料理レシピ本だけで200年300年の伝統がある。
『ビートン夫人の家政書』は19世紀後半に月刊分冊で出版され、後に単行本になった。
聖書と並んで各家庭に常備されたほど、ありふれた本であるが、さて初版を探そうとなると、なかなか見つからない。なぜか。まず消耗品であったことにその原因があろう。……
分厚くて重くて、使っているうちに落としたりして本が壊れてしまう。
同時代の『種の起源』よりも古書価は断然高いそう。ビートン夫人は出版後、28歳の若さで亡くなったとか。若い主婦が大部のレシピ本を作れるほど“伝統”があったということ。
○続映画屋日乗(1) 内海知香子
「映画の本」3冊紹介。
増田明彦『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』 イーストプレス
町山智浩『〈映画の見方〉がわかる本』 洋泉社十河進 『映画がなければ生きていけない』全4巻 水曜社
○陳舜臣アジア文藝館 文・石阪吾郎
5月、メリケン波止場のそばに「陳舜臣アジア文藝館」がプレオープン。長男・立人さんにインタビューした。
陳さんの著作・研究はアジア全体に及んでいる。日・韓・中だけでなく、シルクロードからペルシャ、アラブ、ヘブライなど、大きなアジアを常に考えている。(平野)