■ 植村達男 『神戸の本棚』 勁草書房サービスセンター 1986年 絶版
第二随想集。「神戸と本」にかかわる文章。書店PR誌に寄稿したものが25編ある。
『季刊読書手帖』 川崎・早川書店
『野のしおり』 南天荘書店
『月刊神戸読書アラカルテ』『Blue Anchor』 海文堂書店
特に『野のしおり』では連載。『野のしおり』については後日。
1970年代後半から80年代前半、各地で書店員によるPR誌が誕生した。残念ながら諸般の事情ですべて発行をとりやめた。
「あとがき」より
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『神戸の本棚』は、これら書店誌の鎮魂の書といってもよかろう。ただ売らんがための出版物が氾濫するなかで、「野のしおり」「Blue Anchor」「季刊読書手帖」の存在は貴重であった。
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序文 紀田順一郎「窓からの微風」
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うっすらと記憶に残る街で、ふと立ち寄った小さな古書肆。そこで出会った、ととえば植村さんの愛する神戸由縁の書物。見返しに記された前所蔵者のサイン。思いはやがて、そのかみの神戸の佇まいや懐かしき人々のうえにおよぶ。現代の喧騒のなかに、一瞬古い石畳と街路燈の面影が遥曳する心地よい呼吸は、メインストリートから一歩入った静かな店で、午後三時に人地味わう珈琲の香りに喩えるべきであろうか。
けれどもこの書物は、古い洋館や六甲の山なみが見える窓辺に、何気なく置かれるということが最もよく似合うであろう。あるかなきかの微風が、カーテンをそよがせる。
……風がやはり時代の風である点を、私は最も評価したいと思う。
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神戸の本棚
六甲山から街をみると
大岡昇平の本
陳舜臣の文庫本・新書
不思議な小説『風の歌を聴け』
堀辰雄と竹中郁
挿絵さがし――『蓼喰ふ蟲』小出楢重を追い続ける――
港恋し
神戸と“ガイジン”
……
装丁 伏見康子
「神戸の本棚」より
本棚に神戸の本が並ぶ。田宮虎彦・小松益喜『神戸 我が幼き日の……』、『ミナト神戸』、『ユーハイム物語』、『神戸味覚地図』……。
御影・六甲に住んでいた頃入手した本、東京に来てから買った本。それぞれに思い出がある。
『ユーハイム物語』は創業50年記念の社史。秋晴れの日曜日、渋谷の一度だけ入ったことがある喫茶店「グリム」を捜すが既になくなっていた。歩いているうちに古本屋で見つけた。あの感じのよかった喫茶店の「おみちびき」だと思った。
この本に六甲・神戸大学ゆかりの話がある。戦後、ユーハイム創業者の娘・エリーゼはドイツに強制送還されていた。当時の社長が神戸に来てもらいたいと願う。神戸大学の教授がドイツに留学すると、六甲の喫茶店主から聞いて、教授にエリーゼを説得してほしいと依頼する。1952年(昭和27)頃のこと。植村が学生時代も本稿執筆当時もこの喫茶店「エクラン」は同じ場所にあった。
阪神・淡路大震災で倒壊したが、2年後に再建。その後店主は亡くなり閉店したもよう。
谷崎『蓼喰ふ蟲』は昭和初期に新聞連載。挿絵も評判だった。
植村が作品を読んだのは学生時代。連載時の挿絵は一部しかなかった。全部見たいと、本を捜した。初版本にも掲載されていなかった。
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わたしの挿絵捜しは十年目に完遂することができた。昭和四十八年、高田馬場駅近くの古書店で昭和六年・創元社(大阪)刊の限定版『蓼喰ふ蟲』の復刻版(日本近代文学館編集・図書月販発売)を発見した。この本にはすべての挿絵が収録されている。――
本書に特に好きな挿絵を掲載。
(平野)