■ 小島信夫 『ラヴ・レター』 夏葉社 2200円+税
堀江敏幸『ラヴ・レター』に寄せて 収録
「第三の新人」グループということ、マラマッド『レンブラントの帽子』訳者ということくらいしか知らないです。読んでいて、実在作家名があちこちに出てくるので、身辺エッセイかと思っていた。
たとえば『「厳島詣」』は、岐阜在住詩人・平光善久との電話会話で話が進むのだが、堀江によると、
――《歪んだレンズによる正確な「スイッチ」》によって虚構に組み入れられた人物のひとりであるこの平光善久と、八十歳を越えた語り手の、軽みと呆けと凄みのきいた会話……――
という「老人小説」。読み返す。
小島(1915~2006)晩年の短篇9篇、単行本未収録。息子(先妻との子)は50歳過ぎて重度のアル中、後妻は老人施設、自分はまもなく90歳という時期の作品群。
『浅き夢』では『レンブラントの帽子』のことが出てくる。
『ラヴ・レター』
小島が妻(後妻)に送ったラヴ・レター。彼女は返信せずに直接返事をした。20年以上たって返事を書いたという話が語られる。
先妻を亡くした小島が、子供たちのために母親が欲しい、あなたこそ求めていた人、誓って幸せにする……と書いた。彼女は断わる決心だった。
――しかし私はけっきょくあなたと結婚しました。最初の数年間は、私たちの子供たちのゆえに、非常に難しい日々を過しました。私が困り果てているとき、あなたが手を差しのべてくれました。こうしてと仕事にうまくゆくようになりました、あなたは、とても賢こいお人です。私はあなたに夫として満点をあげたいのですが、遠慮して九十五点にしておきます。今日、私はあなたにラヴ・レターを書きました。(略)現在、私は幸福なグランドマザーです。私は余生が価値あるものであれば、とほんとうに思っています。私たちがこれからも今までと同じように暮して行けたらと願います。心から神様とあなたに感謝いたします。――