■ 福嶋聡 『紙の本は、滅びない』 ポプラ新書 780円+税
1959年兵庫県生まれ、ジュンク堂書店難波店店長。書店業界を代表する論客。著書に『劇場としての書店論』(新評論)、『希望の書店論』(人文書院)など。こちらも。
第2章
デジタル教科書と電子図書館
第3章
書店は、今……
「この世界から書物がなくなってしまったら……」と想像する。
――
「おい、本っていうもの、知ってるか? これは便利なものだぜ。文字情報を必要なだけ拾い上げて、プリントアウトした上に、きちんと綴じてあるんだ」
「じゃ、どこにでも持ち運びできるわけだ」
「もちろん。おまけに、読むのに、端末も、ソフトも、電源もいらないんだ」
「へえ。そんな便利なもの、誰が発明したんだろう!?」
「いやいや、昔は世界中に溢れていたらしい」
「昔は便利だったんだね!」
――
福嶋作の笑い話。そう、電子媒体情報を得るには端末がいる。
福嶋の経験。家電量販店でディスカウントのデジカメを買った。マニュアルはCD-ROM。パソコンで開いてみると、「アプリケーションのバージョンが違うので読めません」。パソコンが古いのではなく、「新しいから読めない」。笑えない現実。
デジタル化を絶対視してはならないという識者たちの意見を引く。
――人類はロゼッタストーンに刻まれた二千年前メッセージを読み解くことができた。しかし、二千年後に人類滅亡後の地球にやってきた宇宙人たちは、ハードディスクの磁気信号に気づくことさえできるのだろうか。――遠藤薫『書物と映像の未来 グーグル化する世界の知の課題とは』(長尾真他編、岩波書店)
――紙は少々劣化するが、ちゃんと保存すれば数百年たっても読める。ましてやOSの変化なんていうものもありえない。――中西秀彦『我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す』(印刷学会)
――90年代に現役だった5インチフロッピーディスクは、いまやドライブ装置を捜すのも困難になってきた。もしかして21世紀初頭は、後の時代に文字情報が伝承されない、文化史の空白期間となる不幸な事態になりかねない。――植村八潮『電子出版の構図 実体のない書物の行方』(印刷学会)
ネットは本当に便利。本屋の現場でも「ネット検索」はもう手離せないでしょう。
福嶋はそれでも「書物の方が便利」と思う。書き込みができる、一覧性がある、何よりも「情報がある目的に合わせて収集、整理されていることの恩恵」=「編集の力」を強く感じる、と。
ネット空間は膨大な情報を必要なだけ自由に選んで自由に編むことができる「原材料の宝庫」だが、選んだモノが良いモノか、編み方が正しいモノか、「保証は、無い」。
――出来上がった布地(テクスト)に責任を負う者が、誰もいない。――
ネット空間に漂うコンテンツが膨大になればなるほど、「書物」の必要性が増す、と考える。そして、宣言する。
――自由な言説の乗った書物というメディアを、ぼくたち書店員は読者に届け続ける、読者に繋ぎ続ける。その仕事に、ぼくたちは矜持を持ち続けていきたい、と思う。――
現場一筋の書店員の言!
(平野)