■ 『土屋耕一のガラクタ箱』 ちくま文庫 840円+税
土屋(1930~2009)、東京生まれ、コピーライター。
カバーは同僚・和田誠がスケッチした土屋の姿。
本書は広告の作り方から始まる。
出題、〈帽子屋さんが若い人たちに帽子をかぶってもらいたい、そのためのキャッチフレーズを〉、制限時間5分。
出題、〈帽子屋さんが若い人たちに帽子をかぶってもらいたい、そのためのキャッチフレーズを〉、制限時間5分。
(1)
「スカットさわやか~」のようなものまねダメ。どこかで聞いたことのあるもの、原型をひねったものなど、失格。
(2)
「若い」にひっかかって「イカス」「カッコいい」などは「帽子をかぶってキチンとしたいオトナには全く無縁」で、失格。
(3)
「ハイセンス」など横文字を使えばいいというのは見当違い、失格。
(4)
「今日は中折れあしたはベレエ」という七五調は「語呂がよすぎて、言葉がツルツルすべって~」失格。
(5)
七五調を徹底して都々逸調、素人の旦那芸。
(6)
カルタ調。審査段階で残るだろうが、入選までいかない。
(7)
駄ジャレ、面白く楽しくよく活用されるが実際には使えない。「ボサボサ頭を帽子で防止」はかなりいいほうだが小粒。もう少しフトコロのひろい表現、世の中をうごかすようなダイナミックな力を。
ということで、
(8)〈8月10日はハットの日です〉 着想のスケール。
〈帽子も入れて四つ揃い〉 三つ揃いに帽子というアイデア。
〈帽子で命を拾った人がいます〉 不安をつく手法。
正解というものはないが、これくらいなら合格点。
プロとして戒める。失格も含めすべて土屋が鼻歌まじりで作った、お遊びのフレーズ。――お金をいただくプロフェッショナルの仕事は、こんな草野球なみのスローボールでは通用しないこともお忘れなく。――(「話の特集」1967.2)
センスや発想力は鍛えることができるのか? 凡人は無理なので〈言葉遊び〉を楽しむ。
アナグラムで俳句。
〈古池や蛙とびこむ水の音 芭蕉〉
数の子や水気を問わむいと古び 土屋
仲間も挑戦してきた。
わずか見むふやけ男のビイトルズ 岩永嘉弘
負けじと土屋。
お岩跳びずずと毛のこる闇深む
〈新年誌〉〈快晴盛夏〉など短いものから80字におよぶ大作もある。
「なんとなく始めてみて、なんとなく続けているだけ……」、「ひとつの休息」と言う。
「頭の中でコマを回したまま休む」状態。プロの凄み。
私好みの下ネタ。
〈たまるサルマタ〉
〈抱きあったこの部屋へのこ立つ秋だ〉
〈にたにたし野糞いそぐ野、下に谷〉
長いのが色っぽい。本書をご覧ください。
解説:松家仁之
――ふだんは無口な親方が、うまい鮨の握りかたについて、お客さんの迎えかたについて、淡々と、虚飾ぬきでじっくり話してくれたようなものなのだ。――
(平野)