■ 稲垣足穂 『美しき学校』 発売・仮縫室 発行・北宋社
装画・稲垣足穂 造本・西岡武良 1978年刊 絶版
美しき学校
童心とゼンマイ 西脇順三郎
あとがきにかえて
美しい町 佐藤春夫
美しい家 堀切直人
商店街の原稿で足穂を取り上げるので本を探したら出てきた。ネット検索すると、発売当時佐藤春夫作品の版権で回収騒ぎがあったそう。コーべブックス在籍時のことだが記憶にない。
「美しき学校」とは足穂(作中では多理)が通った関西学院普通部。大正初め、灘・原田の森にあった。
――南むきの二階の窓からは、青い幅広のリボンの海が見え、向って右手に、横になった巨人のような造船台(ガントリクレーン)をとおして、赤い腹をした汽船がたくさんちらばっている。そこから右手にかけて、水蒸気と石炭のけむりにつつまれた工場がかさなり、すぐ眼の下にはまぶしいエメラルドグリーンに燃あがっている槲(かしわ)の梢があった。けれども多理に魅力があったのは、校舎の北がわにぞくする教室からのながめであった。真四角な採光窓が山脈の一部をカットしていた。それは活きている額ぶちだった。……(六甲山系の景観を描写。話は山上を飛行する飛行機の話になる)
西洋人の教師たち・牧師さん、先輩、同級生たちとの美しい学園生活。とは言いながら、足穂はウイスキーと煙草をポケットに入れている学生だった。今東光が2学年上級で、既に校友会誌にイギリス詩の翻訳を発表していた。
(平野)