2014年2月22日土曜日

足穂 きらきら日誌


 稲垣足穂 『東京きらきら日誌 タルホ都市紀行』 潮出版社 1987年 品切

編集・解説 高橋康雄  装画 まりの・るうにい  
造本装幀 戸田ツトム 松田行正

第一章   ラジエータ       第二章 佐藤春夫を送る辞

第三章 田端時代の室生犀星  第四章 滝野川南谷端

第五章 新感覚派前後     第六章 馬込日記

第七章 木魚庵始末書     第八章 世界の巌

第九章 死の館にて      第十章 幼きイエズスの春に

第十一章 横寺日記      第十二章 方南の人

第十三章 有楽町の思想    第十四章 夏至物語

第十五章 雪ヶ谷日記     第十六章 飛行機の墓地

第十七章 戸塚抄       第十八章 弥勒

第十九章 東京遁走曲

 


 足穂の東京生活は大正8年から昭和25年(19191950、途中何度か明石に戻っており、特に昭和7年から11年までは実家住まい)。約23年の東京生活を書いたものをまとめる。「きらきら日誌」「横寺日記」発表時の題名。

「きらきら」は俗塵にまみれず、孤高の光を保つ星辰の輝きを意味するとともに、貧窮の身でありながら覚醒生活に安定していった足穂の境地を代表させているところがある。足穂にとって魔都東京でもけっして暗黒東京はなかったということで「きらきら」を拝借することにした。(高橋)

 足穂は大正8年関西学院卒業後すぐに上京して自動車運転免許を取得し、明石に戻った。大正10年、『一千一秒物語』の元型を書いて佐藤春夫に認められ上京。

「佐藤春夫に送る辞」は佐藤が文化勲章受賞の昭和35年(1960)に書いたものだが、発表は佐藤の死後、昭和39年。入門から破門されるまでのいきさつを書いている。

「なるほど、君の書いたものをボツボツ読んでいるとオードヴルのような洒落た味がするし、非常に香りのいい煙草を一ぷく喫ったようでもある」

 佐藤の足穂評だが、足穂は入門当初から佐藤の文学的「音痴と知ったかぶり」を批判している。身近にいて佐藤の私生活についても「腑に落ちかねるもの」を感じた。さらに佐藤が文藝春秋べったりになって芥川賞選考や従軍文学者特派に加わったことも我慢ならなかった。

 私が破門になったことには、例の「文藝春秋の喇叭卒」及び「佐藤先生は田舎貴族で、東京へ家を建てに来た」がたたっているが、それより先に、「この先生についていてどうなるものか」が自覚されていたからだ。曽て先生は私に向かって、「僕もはたち代であったならば、君と手を取り合って沈没するところだが、そうは行きませんね。タルホ文学なんかにたばかりはしませんよ、残念ながら」と云ったことがある。私の方はこのままじゃ、「口説き文」「繰言」「替歌」の名人、「耳学問」の大家のお守り役に終りそうだった。先生が何事であれ玄関(・・)覗き(・・)にとどまっているのは、内部に突入するに堪えない脆弱性から来ている。(略、本を読むのではなく見る人、「門弟三千人」吹聴など)先生が言うには「理由は云わぬ。もう逢わないことにしようではないか」先生の門前で面と向かってこう云い渡された時、私は、自分などは退いて、あとは「多士済々」のおみこし担ぎにゆだねることをさとった。……

「破門」の正確な年月日は不明。高橋は、「昭和十年以降、二十年の間と思われる」と書いている。


  【海】史(16)―1

 『CABIN』(その1

  小林による社内通信。
 先に紹介した馬券ビル反対運動の最中のこと。

  846月、東販(現トーハン)の検索発注システムTONETS導入。
853月、福岡宏泰が農協系団体を辞め入社。聞くところでは、入社しばらくして過労で入院したらしい。【海】史には全く関係ない余談。

  864月、小林の書きモノが復活する。社内連絡用通信、B5レポート用紙に手書き、ほぼ毎日発行。小林以外の人間も参加、特に福岡が積極的。
 
 
 
  この『CABIN』から、【海】の出来事を紹介する。

まず、創刊の言葉。

――社内通信としてこの『CABIN』を発行します。海文堂で働く人に少しでも役に立つものにしていきたいと思います。毎日目を通してくださるようお願いします。
 ベストセラー、注目本、ブックフェアの紹介、社内人事など連絡事項の他、小林得意の各地専門図書館案内や取次ルートではない雑誌・書籍紹介、出版用語説明など。

  第1号では、「英検受付」、「サトウ・サンペイフェア」、『陳舜臣全集』(講談社、全27巻)。〈三和銀行読書調査〉の、本を選ぶきっかけについて、「本屋店頭で見て」41%、「書評・広告」30%という回答から、[品揃えと見やすい展示が大切]と呼びかける。
  この年は【海】創業60年にあたる。記念企画として海外の画家を招待して展覧会を開催。
「アイズピリー、ゴリッチ」招待展 52324日 神戸チサンホテル特設会場

「レイモン・ペイネ 愛の世界展」 72829日 元町一番街アートスペース
 新聞紙上での紹介が目立つ。ブックフェアやギャラリー催事など。フェアでは園芸店や酒造メーカーとタイアップしての販売や、独自の切り口に注目してくれている。

「毎日新聞」57日記事。
――フェアやギャラリーの常設などひと味違う本屋を目指すのにはわけがある。神戸市で買い物をする人の流れは、元町から東の三宮に大きく流れており、立地条件が大きく代わってきた。「あの本屋には何かがある、と客が感じてくれるような仕掛けをしないと……」。島田社長の基本的な経営戦略である。――

「毎日新聞」529日でも、「文化の香りのする書店」の記事。
 
(平野)