■ 稲垣足穂 『増補改訂 少年愛の美学』 徳間書店
装幀・飾絵 亀山巌 昭和43年(1968)5月第1版第1刷
私が持っているのは〈昭和51年4月第2版第4刷〉、三宮にあった後藤書店で買った。当時の栞も入っていた。
足穂のエロティシズム研究書。1969年日本文学大賞受賞。現在、文庫版も著作集も品切。
目次
はしがき
第1章
幼少年的ヒップナイド
第2章
A感覚の抽象化
第3章
高野六十那智八十
秋夜長物語
春の宵、洛東名刹の大広間。国宝の絵巻物を前にして客一同が「吐息をついた」。
……閲覧者の大学教授やら、画伯やら、お医者やら、新聞記者やら、各自に恃むところがあった連中だけに、この不思議な、後味のよい、何のねばりつくものもない、しかも余韻がいつまでも味わい続けられるような、いわゆる「ラヴシーン」など既に問題とは成り得ない、僧院版の「うしろ向きのエロティシズム」の香気に打たれて、暫くのあいだ言葉を発することが出来なかった。もはや恋愛的エロスなどは、つばさを失ったセルロイドのキューピットでしかなかったから。
絵巻は、醍醐三宝院蔵「稚児之草子」。
「秋夜長物語(あきのよのながものがたり)」は足穂訳のお伽草子。南北朝の頃成立したらしい。作者不詳。叡山の学僧と三井寺の稚児との悲しい恋物語。
足穂はこのエロティシズムを、「雅やかな、喩えば紅と緑の入りまじったもみじ葉のような」と表現する。
文庫版には入っていない。
足穂が住む伏見から真西(実はちょっと北)の西岩倉に物語の碑があるそう。地図まで書いている。フランスの古城廃墟は「澁澤龍彦君にお委せするとしても、こちらは眼の前に見えている所だから、是非とも出向いてみようと思っている」。