■ 宮崎修二朗 『ひょうご歌ごよみ』 兵庫県書店協同組合 1984年(昭和59)1月刊
装本 村上翔雲
朝日新聞兵庫県下版連載(1983年1月~12月)した兵庫県ゆかりの詩歌集。記紀万葉、風土記から現代作家まで、詩歌、戯曲・小説の一節、民謡もある。「夏」の章からいくつか。
妹と来し敏馬の埼をかへるさに独し見れば涙くましも 大伴旅人
旅人は赴任地・太宰府で妻を亡くした。昇進して都に戻る途中、妻が生きていれば、と船からの風景に涙。
敏馬は灘区岩屋、「みぬめ」=「見ぬ目」と通じて忌み、「みるめ」と読む。敏馬神社は海の女神。
かたつぶり角ふりわけよ須磨明石 松尾芭蕉
白い鳥が大きくなりましたわ。羽を広げたのでございませうか。又小さくなりましたわ。舟が出ますの。鳥が流れますわ。 森鷗外
戯曲「生田川」。万葉集にもある二人の男に求婚された乙女の悲劇。
懶い雨だ…鷗の翼は重たく凋み 船のペンキは悲しい色して濡れてゐる 福原清
竹中郁とともに「神戸海港詩人倶楽部」の中心人物。
発行した本(1100部)すべてに村上翔雲直筆の短冊が張り付けられている。歌は富田砕花。
しんとろりこはくのいろの滴りの澄めば澄むもの音のかそけく
酒づくりの作業。宮崎の解説を引く。
古い蔵にたゆとう微光は、明り障子からのもの。その中で美しい琥珀の色が“生命の水”と映発して滴る。その音はかそかだが、「いのちをのばす」不可思議な霊力をさえ潜めている――と作者は透徹した詩の心で、豊醇な香りの滴下音に聞きほれた。……
解説の文章も美しい。
本書は書店組合が発行元になり、県下の本屋が拡販した。発行者は「川瀬書店」社長名。
(平野)