■ 仲郷三郎編 『味・そぞろある記――兵庫県味覚道中――』 のじぎく文庫 1960年(昭和35)4月刊 表紙 川西英
編者・仲郷は増田製粉所専務。同社は1906年創業、長田に本社。神戸洋菓子には欠かせない会社。
目次
舌代 阪本勝(県知事)
ふるさとの味 嘉治隆一(政治評論家)山のさち・野のさち 富田砕花
海のさち 井上喜平次(須磨水族館館長)
書ききれぬ味のガイド 竹中郁
華食の典――神戸の味―― 今井正剛(県広報課長) 真野さよ(作家)
……
お酒、各地の味、観光連盟推奨名産品も。
兵庫県ゆかりの文化人による食エッセイ。老年・壮年という年代の方たち。敗戦から15年、混乱を乗り越え、食べ物についてあれやこれやと言える時代になったという証拠でしょう。
竹中郁、吉田健一に「舌鼓ところどころ」(文藝春秋連載)取材の案内役を頼まれる。
……相手は名にし負う酒豪、わたくしは一滴でさえ桜色になるという大下戸。こりゃまあ、どうしようぞいの、と浄るりの文句のような尻ごみをおぼえた。酒のみのたべものと、下戸のたべものとは、おのずから好みのちがうものだからである。しかし、といって、急に酒のみの好みの店をさがしあるくわけにもいかない。雑誌にのる趣旨から考えると、あるがままに委するのが一ばんよい。そう考えて、吉田氏のくるのを待った。
これがむかしなら、元の宰相の御曹子ということで町人のわたくしなどは、ヘヘッと這いつくばって、その土地の格式高い旅宿か料亭へ案内しなくてはならなかったろうが、いきなり酒のみに逆らうような形のフロインドリーフへつれていった。……
最初にドイツパン。それから洋菓子のユーハイム、レストラン・ハイウェイ、別館牡丹園、あなご・青辰、凬月堂でアイスクリーム、ロシア料理・ハナワ、とんかつ武蔵、イタリア料理・ドナロイヤ。2日でよう食べた。