■ 島京子 『雷の子』 編集工房ノア 2200円+税
島(1926年生まれ)は東灘区在住、「VIKING」同人。1965年「渇不飲盗泉水」(本書所収)で芥川賞候補。神戸エルマール文学賞代表。
表題作(書き下ろし)ほか、過去の短篇とエッセイ。
「雷の子」
主人公美々子は女優、歌手。精神病院と留置場を行き来して休業中。自分の守護神は摩耶山の寺にある摩耶婦人像だと思っている。幼なじみ(語り手)の吉子が寺と夫人像が火事で焼けてしまったことを告げると、その時ちょうど彼とベッドにいた、と言う。性の焔の中だった、と。吉子は古事記のイザナギが黄泉の国のイザナミに会いに行く場面を思う。
このとき伊邪那美の陰には柝雷がいたのだ。陰というのは、本来は火の処と書くそうだが、美々子の火の処には、たしかに雷が棲んでいる。……陰のみではなく、美々子は軀のあちこちに、この時の伊邪那美と同じように八柱の雷神を寄生させている。
その美貌は、
(安い化粧品を使っても)それでなくとも明瞭に際立ち、人の目をおのずと惹きよせずにはおかぬ容貌を過剰にし、目は目の存在の範囲を逸脱し、一つの強烈な力として迫る。顔全体は、生物が無関心ではいられぬ南国の食肉花のように、妖しく咲き出した。
演技力、
「日本には数少ないギリシヤ劇やシエクスピア劇を演じられるスケールの女優になっていたかも知れない……」
古代の女王か、巫女の生まれ代わりなのか、肉体の中の雷神は彼女自身を破滅させる。男を求め、酔っては奇行を繰り返す。
登場人物は仮名だが、美々子はじめ、何人かは想像できる。
(平野)