■ 東秀三 『神戸』 編集工房ノア 1994年8月刊
カバー・扉装画 石阪春生
東秀三(あずましゅうぞう、1933~1995年)、神戸市生まれ。作家、「VIKING」、「関学文芸」同人、創元社の編集者だった。
神戸を歩いて街と人々の営みを書きながら、自分史を重ねる。
目次
灘五郷 谷崎潤一郎 水道筋 毎日登山 神戸ゴルフ倶楽部 VIKING セビル ロウ ジャズ・ストリート 南京町 足立巻一 明石 ……
「灘五郷」では造り酒屋の主人・小野楠雄のことが語られる。蔵は灘だが、神戸駅前に店があった。楠木正成を祀る湊川神社の熱心な氏子で、名前にも「楠」がついている(これは父親がつけた)。酒の名前も「正成」「正行」、ラベルは菊水。東の家は洋服仕立て屋で、小野はその得意先だった。
小野は出版社・五典書院も経営していた。
……いま手元に和綴じの増田五良著『馬薊亭雑記』がある。(略、昭和17年11月発行)田山花袋を取り上げた短いエッセイや、一葉と「文学界」の人々、メリメ断想、メフイストの仁義などと中身はとりとめないが、口絵にロビンソン・クルーソーの色刷りの挿絵がはいり、手漉き和紙を使用した本文には、地模様にあざみの絵を印刷している。/凝りに凝っている。片面二百二十二ページを二つ折りにして綴じているから堂々たる束がある。簡単ながら筒型の紙の帙までついている。……
1969年から6年かけて、白川静の講義録『説文新義』(全16巻)を刊行している。
「VIKING]
昭和二十二年に創刊されたいかめしい民族を表題にした同人雑誌は、表紙や奥付の表記にしたがえばVIKINGである。しかし融通無碍なところがこの同人雑誌のよさで、会の名前はVIKING
CLUBでありながら、郵便振替の表記はバイキングクラブである。キャプテンの富士正晴はじめ、ヴァイキングと表現して原稿を書いている同人もいる。……
合評会は元町駅北側の私学会館。ガリ版で、富士がそのガリ切りをしていた。
東が乗船(入会)したのは59号(昭和30年1月号)で、下船(退会)が93号(昭和33年4月号)。
(平野)
東の生まれは大倉山(うちの近所)、育ちは六甲道。神戸三中入学だが、戦後の学制改革で長田高校併設中学校卒業、神戸高校編入となる。