■ らもん 『全ての聖夜の鎖』 監修 小堀純 復刊ドットコム 2700円+税 A4判
解説 「全ての聖夜の鎖」 諏訪哲史
「中島らも」以前。
1979年自費出版、限定100部制作。2000年文藝春秋より復刻。
没後10年記念、らも幻の処女作・掌篇小説3篇に詩とエッセイを収録する。
「薄明に野の祈り容れられず 斯くて夜はきしむ卵となりぬ」
その夜、夜間飛行のパイロットは海岸線に不思議なものを見た。三つの蒼白い炎が結ぶ二等辺三角形である。それは暗い波頭と、さらに暗い陸地の結節点に、太古からの紋章のようにポツンと輝いている。
「誰かが夏を密葬しておるのだ」
彼はそう考え、既視感にともなうあのほろ酸い悲しみに抱きしめられる。
……
大爆笑モノではなく、クスリや酒の勢いでもない。
若さと情熱。
復刻版発行時の言葉。
その頃おれは印刷屋の営業マンとして、先ゆき自分が文章でメシをということは考えもしなかった。
野心がない。その分、ピュアな一冊だといえる。
広告マンになる前のこと。
(平野)