■ 浅田修一 『神戸 最後の名画館』 幻堂出版 2001年3月刊
1985年『神戸 わたしの映画館』(冬鵲房)の増補改訂版。
デザイン 神戸鶴亀本舗 石井章 イラスト 浅田修一
浅田(1938~2001年)は高校教師。お元気な頃はよく本屋回りもされていた。服装はいつも黒。『教師が街に出てゆく時』(筑摩)他著書多数。
目次
第一話 松竹新劇 山田洋次にちょっと注文
第二話 新公園劇場 右眼と映画と『ワーテルロー』第三話 六甲東映 団鬼六と坂道の街
第四話 繁栄座 雨の日の映画館
第五話 公園劇場 「ピンク映画」の闇の中で
朝日会館、富士映劇、新劇快感、ビッグ映劇、福原国際、吹田映劇、アサヒシネマ、新劇会館シネマ1 ……
85年版「あとがき」
……ある映画を見るためにある映画館に入るという、ごくありふれた行為の中に、私たちはどれほど多くの暮らしのあれこれを引きずり込んでいることだろう。そのあれこれと、そのあれこれの思い――。私の書いて来たことは、つまりそういうことだったかもしれない。その意味で、あの映画館の闇というものは、単に技術的な必要性というにとどまらず、なかなか味のある空間に違いない。私たちが持ち込んだもろもろのものは、あの闇の中で、ひととき癒され、翻弄され、やがてひとつの形をとる。……
この時、既に身体中に痛みがあった。頚椎の手術で入退院を繰り返す。
本書は映画評論だけではなく、映画館と映画と浅田の日々のもろもろのこと。GFとの映画話、右眼をケガして左だけで映画に付き合えるかの心配、鑑賞中のできごと、映画館を出てからの喫茶店や飲み屋のこと、……。
痴漢に遭う。ピンク映画の最中に左隣の男の手が自分の左内股に来て右脚に移る。
「お兄さん、足ないのん……。」男はぼそっと言い、しばらく手を握っていて、やがてどこかへ行ってしまった。……
映画話の合間に本屋のことも。
六甲道、阪急六甲にあった南天荘書店と六甲界隈の思い出、新開地では神文館、元町では【海】の名がチョロっと。
2000年10月、「新劇会館」で映写室をスケッチさせてもらう。支配人の配慮で2時間映写室、無我夢中。後から来るであろう身体の痛みを予想する。描き終えて握り飯を食べる。
喰い終わって、ウーロン茶で二回目の鎮痛剤を飲む。ボルタレンという鎮痛剤は、一日二度が限度である。今日は半日でエネルギーが尽きた。閉店。(映画の時間表を見ると、スペインの監督作品)少なくともこの人は、元気はくれるな、いくか。小便に行って、ハチミツ・レモンを買って、見ることに決める。……
写真はカバーと本体。右上のイラストが「新劇会館映写室」。
(平野)村田社長の本棚より拝借。