◇ 【海】史(24)
■ 阪神・淡路大震災後(1)
続いて島田の記録から。
冬が去り、春が来て、桜が咲いた。
この季節は書店にとっては教科書の季節である。各学校もそれぞれ地震による事情を抱え、生徒さんにも素直に新学期を喜べない悲喜こもごもがある。我が社の従業員も家庭にそれぞれ問題を抱え、不便な通勤に耐え、普段より忙しい業務に耐えている。
皆が「本好きな感性豊かな読者に支持される専門店色の強い総合書店を目指し、仕事に誇りをもっていることがうれしい」と書く。
私たちはかつてない体験をし、そのなかで等しく劇的に体験した人が人に対して優しくあることの素晴らしさへの共感を、これからの街づくりへの礎石としたいと考えている。
“復興”の掛け声とともに都心部では解体工事が進んでいく。空き地になった場所に何があったのか思い出せない。既に“風化”が始まろうとしていることを恐ろしく思う。
毎日が高揚したような、微熱が続いているような、寝ている時も現のままのような、まことに異常な時が過ぎて行く。
“復興”の名のもと、行政とゼネコン主導の都市開発に抗議する。神戸市の文化指針検討委員会で役人とぶつかる。6月発売になった『神戸発 阪神大震災以後』(酒井道雄編、岩波新書)のなかで「神戸に文化を」を執筆担当。市の文化担当者との震災以前から計画のあった“六甲シンフォニーホール”(六甲山を削って地下型の音楽ホールを作る)についての激しいやりとりを紹介している。委員会で反対されながら、計画はずっと生き残ってきた(のち財政難で計画中止、莫大な損失を出した)。
被災地外の人には大震災はもう過去のこと。メディアの関心も「オウム・サリン事件」に移っていた。かつて島田はテレビ局に懇願されて、寒い夜遅くに戸外の取材に付き合った。レポーターは「二ヵ月後にフォローの取材をする」と帰って行ったが、二度と来なかった。「アート・エイド」の運動を批判される。多忙とストレスで体調を崩した。
「たかだか本屋のおやじのぶんざいで、なにを大層なことを言っとるの、そんな暇があったら本の一冊でも売りなはれ」という叱責の声が聞こえてきそうである。
その通りやなと私も思う。「本業はだいじょうぶか」と先輩からなんども言われた。大丈夫やおまへん。これも真剣です。今、震災の大きな試練のなか、ようやく私たちが今まで言いつづけてきた本当の市民社会の実現、とりわけ私にとっての「市民が主体的に文化に関わる」という主張が行政に届く可能性が生まれたのだ。空想といわれようと、ロマンティストといわれようと、今、この可能性に賭けてみたいと思う。
7月、子どもたちの夏休みが始まるとすぐ、元町商店街では1日だけの“夜市”が開かれる。長い商店街の東から西まで露店が並ぶ。長年続いている賑やかなイベントだが、食品衛生などの問題もあり、今は業者が運営している。この頃はまだ商店主と従業員が手づくりで参加していた。【海】は例年「焼きとうもろこし」。
昔は私と家内の二人でやっていて、友人が助っ人してくれたりしていたが、今はすっかり従業員のお祭りになり、有志が大汗をかいて、とうもろこしを焼き、大声をはりあげて売っている。こだわりのタレとか、焼き具合とか、うるさいものだ(本を売るときもこんなに熱心だったらいいのに)。
大震災から半年。今年は無事開催できるか心配だったが、大勢の人が集まった。
おじいちゃん、おばあちゃんの笑顔。子供たちの顔。地域の三世代の交流が、輪になり人々を呼び寄せる。
(平野)『神戸発 阪神大震災以後』については後日。
◇ ヨソサマのイベント
■ 第九回サンボーホールひょうご大古本市
4月4日(金)~6日(日) 10:00~19:00(最終日18:00まで)
会場:三宮サンボーホール
主催 兵庫県古書籍商業組合 078-341-1569