■ 稲垣足穂 『がんじす河のまさごよりあまたおはす仏たち』
第三文明社
装幀 山本美智代 1975年刊 (私が持っているのは86年4刷)
足穂の宗教・哲学論集。書名は、九条武子(1887~1928、西本願寺法主の娘、歌人、教育者、福祉活動家)作の讃仏歌「聖夜」より。
Ⅰ 東洋の幻想 兜率上生(とそつじょうそう) 僕の弥勒浄土 廻るものの滑稽 別の秩序 生の連続
Ⅱ 悪魔の魅力 姦淫への同情 新生の記 幼きイエズスの春に
Ⅲ 有楽町の思想 俗人論 子供たちと道徳 フェヒナーの地球擁護
Ⅳ 弥勒
解説 弥勒から弥勒まで
たれもが知っている「色即是空」「諸行無常」をはじめとして、仏教の叙述には、「不」とか「空」とか「非」とか「無」とか、否定的なコトバがふんだんに現われます。
この事情は仏教について何も知らない者にも一つの深遠性を感じさせます。祇園精舎の鐘の声と娑羅雙樹の花の色を持ってきた平家物語の書き出しは、そのまま仏教にたいするわれわれの気持を代弁しています。すなわち、それはなにやら懐かしく結構な、尊いおしえとして受取れるかたわら、一種の心ぼそさが……入相の音と共にどこかへ消えてゆくかのような感情を、われわれは否むことはできません。 「東洋幻想」より
足穂は50歳の時、篠原志代と結婚。彼女は本願寺派の有髪の尼僧で児童福祉司。「菩薩のような」(「タルホ座流星群50 稲垣志代」『稲垣足穂の世界』平凡社より)女性。
(平野)