◇ 【海】史(19)
亀井純子はオランダ領事館文化担当秘書官で、島田とは日蘭文化交流活動でつきあいがあった。1990年5月、癌のため40歳の若さで亡くなった。翌年、夫君亀井健から島田に、彼女の遺志を汲んで若い芸術家の活動支援――彼女が働いて貯めたお金1000万円を役立てたい――の相談があった。
さて、この一千万円で何ができるか。継続的に支援しようとすれば、利息の運用益を原資にするほかないけど、たいしたことはできない。ここは、趣旨に賛同いただける皆さんに呼びかけて寄付を募ろう。こうして亀井純子文化基金がスタートした。
寄付を集めても税務上“贈与”とみなされ税金が課せられる。財団法人とか公益信託という方法しかない。財団は基本財産一億円以上で無理。公益信託しかない。運営委員長に亀井、信託管理人に新野幸次郎(元神戸大学学長)、島田が事務局長で海文堂が事務局。
公益信託の許可を県教育委員会に願い出るが、県の内規では3000万円以上必要。
これでひっこむわけにはいかない。このケースは、メセナ時代といわれる現代の文化支援の新しい地平をひらく市民自らの手による市民メセナである。
新しい事例として認可を申請した。
今後も募金を続けて基本財産を充実させること、年間100万円以上の助成を行うこと、を条件に認可がおりた。
1992年1月、第1回助成事業として国際交流イベントが実現。
「美術家たちの提灯展」。イサム・ノグチデザインによる提灯をつかって内外の作家たち15人が美術作品をつくり巡回展を行った。
お役所の決済がおりたは7月。8月、「基金」発足記念コンサート。その席で以後の助成事業を発表した。
第2回 外国人による「四ツ谷怪談」(演劇)
第3回 音楽家の展覧会(現代音楽)
第4回 実験劇場シアターポシェット(芸術育成)
スタートしての基本基金は千三百万円。なんという小さな基金だろう。でも亀井純子さんの蒔いた小さな種が、多くのひとの善意の拠金によって育ちつつある。一件二十万円の助成でしかないけれども、この小さなお金の援助がなければ実現しないことだってある。(『無愛想な蝙蝠』より)
2010年3月までに91件1800万円の文化助成を行った。
2009年島田の妻悦子が癌で亡くなった。彼女の遺志で「神戸文化支援基金」が設立された。
二人の“芸術を愛した女性”にちなんだ「基金」は2011年合併、公益財団法人「神戸文化支援基金」として活動を継続している。
◇ ヨソサマのイベント
■ 第160回神戸古書即売会
3/7(金)~9(日) 兵庫古書会館 078-341-1569
■ 川西英 生誕120周年記念 作品&パネル展
○「川西英が刻んだ時代」写真パネル展
3/6(木)~11(火) デュオこうべ(JR神戸駅南側地下広場)
○「川西英が愛した神戸」作品展
3/14(金)~23(日)
KIITO:( デザイン・クリエイティブセンター神戸)078-325-2201
*両会場とも入場無料
(平野)
元町商店街HP連載「【海】という名の本屋が消えた(4)」
紙版「みなと元町タウンニュース」は商店街の専用ラックで配布中です。