■ 野口武彦 『明治めちゃくちゃ物語 維新の後始末』 新潮新書 740円+税
「週刊新潮」に丸8年連載した幕末シリーズの最終巻。
――筆者が「幕末」の始まりと信じる天保改革の時期(一八四〇頃)から明治十一年(一八七八)の大久保利通暗殺までを一区切りに扱ってみたわけである。この期間は世の中ではふつう「幕末=維新期」といわれているが、私見では、この時期は、史上めったにない密度で、奇人・珍人・変人・偏人のたぐいが出現した期間なのである。もっともこの人種には、非凡な人からフツウじゃない人まで、上は天皇・将軍から下は下層のコソ泥まで、ずいぶんと幅があるけれども。……――
歴史の中心人物・事件だけではなく、「社会の隅々隅々の、通常の人々の目が行き届かない場所を好んで見つくろった」できごとから激動の時代を描く。
たとえば、東京の人力車は明治4年5月2万5千だったのが12月に4万を越えた。東京府は人力車に税金をかけ、道路修理に充てた。車夫は武家奉公していた失業者たち。それに没落士族たち。
明治9年8月の新聞に、高身旗本の息子が車夫に落ちぶれていたところを元の奉公人が助けた、と報じられている。これはいいニュースだろうが、士族の娘が不幸になるということももちろんあった。
第一部
明治夢幻録
明治維新は革命か〈革命の三条件と三つの謎〉
桑と茶〈失業と貧窮の首都〉
大村益次郎暗殺〈破格な登用は命取り〉
奇兵隊反乱〈民間兵の失業と解体〉
人力車の時代〈没落士族と奉公人の失業問題〉
絞首刑の採用〈近代的な死刑の追求〉
普仏戦争と日本人〈近代日本のモデルとなった国〉
岩倉使節団〈西欧社会で見た「近代」の風〉
円の誕生〈財政と貨幣制度の一元化〉
徴兵令〈国のために血を流すのは誰か〉 他
第二部
明治反乱録
ざんぎり頭〈頭髪は時代を映す〉
秩禄処分〈職業としての武士を潰すまで〉
東京新繁昌記〈活字が描いた新風俗〉
岩倉具視暗殺未遂〈反政府勢力の二極化と後遺症〉
警視庁創設〈行政執行力としての警察〉
佐賀の乱〈士族反乱の蜂起と鎮圧〉
廃刀令〈郷愁なき武装解除の受容〉
神風連の乱〈新しい時代を拒絶した士族〉
西郷隆盛暗殺計画〈文明開化か「第二の維新」か〉
西南戦争〈最後にして最大の士族反乱〉
紀尾井坂の変〈明治維新激動期の完結〉 他
徳川幕府は倒した。さて、その後は?
「明治維新は革命か」より
野口はフランスの歴史学者マチエの『フランス大革命』から、革命の3条件をあげる。(1)政権担当者の交替=政治革命 (2)社会制度の変革=社会革命 (3)「財産の位置をかえる」=経済革命
明治維新はこれらを一気に成し遂げたわけではない。
(1)幕府から支持権力奪取(維新前に弱体化していた)。(2)廃藩置県で封建支配層から権力奪取、武士はしばらく存続したが徐々に力を失う。(3)政府は「復古派」と「文明開化派」が対立し、後者が勝利する。そして、士族の秩禄を廃止する。ここで「土地・石高からカネへと財産の位置が変わった」=「経済革命」実現。
(西郷は財閥と密接な人物が政府高官になることが許せなかった)
また岩倉具視にとっては、王政復古は字義通り王政復古であるべきだった。武士に政権を奪われる以前の朝廷政治を復興するのが岩倉の明治維新であった。……
要するに、この時代はじつにさまざまな明治維新のヴィジョンがあったといえよう。逆にいえば、現実は誰の思惑ともちがっていたということである。「違うぞ! こんなはずではなかった」という思いが各人の胸をつらぬいた。そうした矛盾が噴出した最大の出来事は、やはり西南戦争に至る士族反乱であったが、それとはまた別に悲劇がある。……
(島崎藤村が『夜明け前』で描いた、維新で出来上がるはずだった神道による祭政一致の理想が裏切られていく)――
わずか10年ほどで「新国家」を作り上げた。西洋列強に追いつくために。
明治23年(1890)国会開設、憲法発布。明治27年(1894)日清戦争。
◇ 『ほんまに』第15号 本日発売
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(平野)