2023年7月30日日曜日

日本史の旅人

7.25 訃報、森村誠一、無着成恭。

7.26 「朝日新聞」文化欄、赤川次郎が森村誠一追悼記事寄稿。「妥協なき 闘う作家との日々」。

7.27 臨時仕事。下車駅の高い天井に燕がいっぱい羽休め中。上からポタンポタンと落としよる。ヂヂの帽子に落ちてきた。お勤めの人や学生さん、落とされたら気の毒。

 吾郎さんから昨年花森書林での個展図録のおまけ(購入者特典、希望の写真を描いてくれる)が届く。娘一家の絵。ありがとう。本体の図録はまだまだ先らしい。

 


7.29 古書愛好・タカさんから「本は人生のおやつです!!」の通信「本おや通信」届く。タカさんが取材を受けている。昨年「本おや」は大阪堂島から兵庫県朝来市に移転。朝来は遠いなあ。

 午前図書館。カード目録(人名・事項)を繰っていたら、竹中郁関連で経歴など不明だった画家の名前を見つけた。ネットのキーワード検索では出てこないけれど、昔の司書さん制作の目録が役立つ。

 午後本屋さん。時代小説新刊あり、またもサイン本。


 野呂邦暢 『日本史の旅人 野呂邦暢史論集』 中公文庫 

1100円+税



 1937年生まれ、80年死去。この人も早く亡くなってしまった。でもね、小説集、随筆集、文庫と出版が続いて、人気は衰えない。作品は自衛隊体験、歴史小説、古書ミステリーなど多彩。

 本書は、邪馬台国論争、元寇、戦国、日露戦争、地元諫早市郷土史など歴史随筆。「季刊・邪馬台国」(梓書院)の初代編集長を勤めた。創刊号巻頭言より。「歴史は万民のものである」。

〈謎に包まれた古代史に関して在野の研究家がおびただしい考察を発表している。/歴史が専門家だけでなく一般の人にも研究の対象となるのはいいことである。(略、専門家はアマチュア史家を評価しない傾向、本誌は専門家と在野のアマチュア研究家との間に横たわる深い溝の橋渡し)/民間のまじめな研究家に労作を発表する機会を提供したい。/または真摯な専門家の諸先生から助言を得たい。〉

(平野)

2023年7月25日火曜日

対談日本の文学 作家の肖像

7.22 訃報、作家・高史明、歌手のトニーベネット。

7.23 本日大暑。

「朝日俳壇」より。

〈広辞苑曝書もされず眠りをり (日立市)奥井能哉〉

「朝日歌壇」より。

〈休刊の記念に買った週刊誌復刊望み切に保管す (戸田市)椎橋重雄〉

 兵庫県立近代美術館「日本近代洋画の巨匠 金山平三と同時代の画家たち」展、最終日。高齢者料金で入場。金山(18831964年)は神戸元町3丁目生まれ、花隈育ち。絵は絶対売らない、納得するまで手を入れる、100年後200年後に本物かどうか分ってもらう、画壇の権力に屈しない、叙位叙勲も辞退。孤高の画家の生き様は見事。

 

 『対談 日本の文学 作家の肖像』 中央公論新社編 

中公文庫 1200円+税



同社創業八〇年記念出版『日本の文学』(全八〇巻、196470年)の月報掲載の対談・鼎談をまとめ、71年単行本。文庫化に際して再編集、『対談 日本の文学』全三巻完結。

 全集編集委員は、谷崎潤一郎、川端康成、伊藤整、高見順、大岡昇平、ドナルド・キーン、三島由紀夫。刊行中に谷崎、伊藤、高見が鬼籍に入り、完結してすぐ三島自決。72川端自死。生存者のひとり大岡昇平が懐古。

〈幾度か回を重ねた編集委員会は、必ずしも平穏ではなかった。むしろ荒れ模様の時の方が多かった。それぞれに一城の主であるから、独自の文学観、文学史観と、個々の作家の

評価について、見解を持っている。(中略)喧嘩になった時の眼付とか、頬や額の色とか、同意に達した時の笑い声とかが、特に今は亡い同僚について、思い出される。〉

 前に触れた三島の松本清張拒絶のことだろう。

 三島は「稲垣足穂の世界」で澁澤龍彦と対談。足穂に会いたくない理由を二つ語る。

ずっと愛読しているから「稲垣さんを、いまだに、い、洗濯屋から返ってきたてのカラーをした、小学校の上級生だと思いたいんですよね、どうしても」。

「もう一つは、非常に個人的な理由ですけれども、僕はこれからの人生でなにか愚行を演ずるかもしれない。そして日本じゅうの人がばかにして、もの笑いの種にするかもしれない。(中略)ただ、もしそういうことをして、日本じゅうが笑った場合に、たった一人わかってくれる人が稲垣さんだという確信が、僕はあるんだ。僕のうぬぼれかもしれないけれども。なぜかというと、稲垣さんは男性の秘密を知っているただ一人の作家だと思うから」

 三島自決はこの対談の半年後、全集完結の次の月。

(平野)

2023年7月22日土曜日

仙台あらえみし日和

7.18 暑いけれど、仕事、お医者、買い物には出なければ。

 元書店員、現在牧師の元正章さんから新刊著書『益田っ子 ありがたき不思議なり』(南船北馬舎)をいただく。いまは島根県益田市に赴任中。毎月の通信「益田っ子」をまとめたもの。

 


7.19 訃報、平凡出版~マガジンハウス編集者・木滑良久、国文学者・高田衛。

永井紗耶子『木挽町のあだ討』直木賞おめでとうございます。

 

7.20 午前中臨時仕事、山を切り開いた住宅地。鳥が鳴く。「ホーホケキョ」がいつかのどこかの鳥よりぎこちない。まだ初心鳥か? 午後ギャラリー島田DM作業。

ボーッと生きていても歳は取る。ほとんど投稿しないSNSに友人たちからメッセージをいただく。ありがとさん。毎年思う、頼んない年寄りで申し訳ない。

 孫動画、ハッピーバースデーを歌ってくれる。何よりのプレゼントで、ヂヂバカちゃんりん。今日姉は幼稚園お泊りイベント。妹は自分も行く気でいる。

                             

 土方正志 『仙台あらえみし日和 杜の都で本と暮らす』 

プレスアート 2500円+税



 仙台市の出版社「荒蝦夷(あらえみし)」代表、編集者、作家。取材、執筆、営業、本・読書普及イベントやら企画やら、メディア出演もある。大忙しのはずなのに、2019年に古本屋「古本あらえみし」を開業。北海道の実家を貸すことになり、仙台に家財・本を引き上げる。そのため事務所も移したが、小出版社には広すぎる。1階に本を収めて、古本屋にした。

〈というわけで、本を書き、本を編み、本を売り、今度は古本稼業にまで足を踏み入れて、あと3年ほどで還暦を迎えるのだから、なんともはや本まみれの我が人生である。〉

 河北新報連載「仙台発出版こぼれ話」。著者紹介欄を見ると、古書籍商組合理事やら大学非常勤講師も勤めている。芥川賞作家で仙台書店員・佐藤厚志の推薦コメント、

〈しかし、どんだけ本が好きなんだ、この人は。〉

(平野)本に宣伝用POPが挟まっていて得した気分。「しかし、どんだけ忙しいんだ、この人は」。

2023年7月18日火曜日

花森書林営業再開

 7.16 「朝日歌壇」より。

〈本が好き悪口言うのはもっと好き高島俊男の顕彰碑建つ (三郷市)木村義熙〉

〈ただ一軒歩いてゆける書店にて週刊朝日休刊号買う (中津市)瀬口美子〉

 

7.17 花森書林営業再開。528日、店主・森本恵さんが病のため逝去。ご遺族から「本人の遺志」を伝えられ、第三者としては発表を控えていました。辛く悲しいことですが、ご遺族が一番辛い、悲しい、悔しい。今日お店に伺って、夫・ダルマさん、弟・慎さんと挨拶して、皆さんが彼女の不在を乗り越えようとしていらっしゃることがよくわかった。

 私個人はトンカ書店以来並々ならぬお世話になったし、今後も頼りにする。昨年彼女が友人の製本家と「海という名の本屋が消えた」100回記念本を作成してくださった。形見であり、黄泉の国からの激励と肝に銘じ、連載を続ける





 元町駅前、猛暑の中、販売員さんお疲れさん。BIG ISSUE459。リレーインタビューは作家・李琴美(り・ことみ)。「文学とははぐれ者のためのものであり、社会の主流から外れた人を描くことが文学の本懐であるはずです」。 



(平野)  

2023年7月16日日曜日

プリニウス 第12巻

7.9 「朝日歌壇」より。

〈ジャーナルはキャンパスで読みデモに行き週刊朝日は夜行列車で (小松市)沢野唯志〉

 桂米團治独演会、サンケイホールブリーゼ。トリネタはオペ落語ならぬ歌舞伎落語、仕方噺「勧進帳」。解説しながら弁慶、冨樫を演じ、踊る。三味線と長唄、浅野美希。弟子米輝が助演と笛。

7.10 姉孫が大好きな力士を名前入りタオル広げて応援するのだけれど、連敗。ファンが多いのだからもうちょっと勝ってほしい。

7.11 朝図書館、午後買い物。高齢者には危険な暑さだけれど外出しないわけにはいかない。なるべく陽に当たらぬよう道を選ぶ。

 訃報、三代目平和ラッパ。ご冥福を。

私が子どもの時活躍してはったのは二代目。おかっぱ頭で前歯が出てて、「天王寺の亀がな~」「はは~しゃいならーっ!」。

 花森書林、7.17(月)再開の知らせ。

「映画批評」2023.夏号をいただく。懐かしい映画人の話あり。

7.13 訃報、チェコの作家ミラン・クンデラ。

臨時仕事、今日は明石の西の方。帰り道、土砂降り雷、歩道も車道も冠水、ズブ濡れヂヂ。

 高校同窓会の知らせ。古稀を迎えて計画の由。幹事さんたちの熱意に感心。

 娘がSNSで自分たち家族の絵が出ているのを発見。吾郎さんの個展図録(昨年12月花森書林で開催)のおまけ。図録予約者に希望の絵を描いてくれる計画。完成間近?

7.14 仕事、人手が足らず、臨時出勤が次々入る。

7.15 「朝日新聞」夕刊に漫画『プリニウス』(ヤマザキマリ、とり・みき著、新潮社)12巻完結の記事。古代ローマの博物学者評伝。ヂヂは11巻もまだ読んでいない。楽しみは置いておくというか、読むのがもったいないというか。積ん読に全集の最終巻やらいろいろあり。



(平野)

2023年7月9日日曜日

読み書きの日本史

7.6 臨時仕事、行先き変更で4時半起き。

7.7 夕方から雨。織姫彦星残念。孫電話、ふたりで七夕の歌合唱。大きな紙に短冊や折り紙貼って、笹の代わり。願い事のなかに、パパのお仕事のお願いも。親孝行である。姉は大相撲楽しみ。人気力士の休場を知っていた。新聞の番付表を送らねば。

「みなと元町タウンニュース」Web版更新。

https://www.kobe-motomachi.or.jp/motomachi-magazine/townnews/

 

 八鍬友広 『読み書きの日本史』 岩波新書 1060円+税



 東北大学大学院の教育学教授。

読み書きの能力はどのように広がってきたのか。この島国に文字はなかったが、固有の話し言葉はあった。漢字が伝わり、漢文を使いつつ日本語に読み直し、音読み訓読み、万葉仮名、ひらがな、カタカナを作る。中世には候文を文書に用い、江戸時代まで使い続けた。寺子屋と言われる庶民の学びや商家での従業員教育では「往来物」という実用文書が使われ、文書作成能力に重点がおかれた。手紙や公文書の文例集、商家用、農家用、郷土の地理・歴史など。読み書きが民衆の広い層に広がった。江戸時代の識字率は高かったと言われるが、地域差があるし、自分の名前や近隣の村名程度という場合もあり、断定はできない。明治の学校教育では国民国家育成と転換されたが、初期段階では文書作成のための教育は存在し往来物も使われた。

歴史的に見て、「ほとんどの人が読み書きのできる社会というものが、じつは驚くべき到達点である」。ごく最近のことなのだ。読み書きは「長年にわたる習練の結果によってはじめて獲得される」。「使っていなければ、あっという間に忘却されていく」。

読めるけれど書けない漢字がたくさん。以前は書けないけれど辞書で調べて書いたけど、テクノロジーの進歩はカナを難字に変換してくれる、音声入力もある。読み書き能力は確実に落ちていく。

(平野)

2023年7月4日火曜日

ありとリボン

7.2 「朝日歌壇」より。

〈霧晴れてぶどうを渡る初夏の風読み残したる『歎異抄』を開く (安芸高田市)安芸深志〉

〈見えないと無いのと同じことに成るはだしのゲンが消えた教材 (筑紫野市)二宮正博〉

〈思い出は「週朝歌壇」に載ったこと二冊求めるきょう最終号 (千葉市)高橋好美〉

 周防大島みずのわ社主来神。出版も農業も経費高騰しているのに、本も作物も値上げできない。翌日健康診断ゆえ紅茶とコーヒーで長話。

 

7.3 今週は仕事変則、本日休み。編集工房ノアから児童詩誌「きりん」の詩人の本再版届く。

BIG ISSUE458。表紙とインタビューは作家・西加奈子。語学留学先のカナダでがん告知を受け、治療。



「みなと元町タウンニュース」371号着。拙稿は「金曜」35号から48号(途中欠本あり)紹介。Web版はもうしばらくお待ちを。

 

 山口雅代 『新版 ありとリボン』 編集工房ノア 2000円+税



 児童詩誌「きりん」(1948年創刊)に詩を発表していた小学生。雅代は脳性マヒのため字を書けない。母親が彼女の言葉を書き留めた。小学校卒業記念に母がガリ版刷りの手作り詩集をまとめると、「きりん」監修者・竹中郁が編集して『ありとリボン』と書名をつけた。

「ありとリボン」

土の上に 日がいっぱい/ローセキで/おにんぎょう かいた/毛も しろ/ふくも しろ/しろい目で/青いお空を みてる/しろいリボンを つけてやると/ありが/リボンを とりにきた/おててで かくすと/ありは よけてとおった

 

 雅代は現在81歳。母とぼろぼろになった詩集に感謝し、詩集を復活させる。初版1956年、文教堂出版発行、「はしがき」竹中郁,装幀挿絵・初山滋。新版には付録として、足立巻一、浮田要三、黒田清の「きりん」紹介文を掲載。装幀(初版アレンジ)森本良成。

(平野)

2023年7月2日日曜日

中上健次短篇集

6.29 5月から6月、ヂヂは身体精神とも不調。愛書家のブログもご無沙汰。久しぶりに林哲夫ブログを開くと、児童詩「きりん」の詩人の本復刊の記事。版元に注文メール。心身、良い方向に向かえ。

 ネットのニュースで、名古屋ちくさ正文館7月末閉店を知る。ヂヂまた落ち込む。

 本屋さん、『ユリイカ臨時増刊号 総特集 大江健三郎』(青土社)、全660ページ超。ゆっくり読もう。内容はこちらを。

http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3823


 

7.1 買い物帰り、元町「こうべまりづくり会館」で青山大介鳥瞰図展。〈「鳥瞰図」に見る神戸都心の景観変遷/青山大介作品展2023〉。新作の函館、姫路城、兵庫津も。会場で鈴さん、セ~ラ編集長お手伝い。

 

 『中上健次短篇集』 道籏泰三編 岩波文庫 910円+税



 中上健次(19461992年)。早く亡くなってしまったなあ、と思う。1976年、『岬』で戦後生まれ初の芥川賞受賞。

 生まれ故郷の「路地」「熊野」、地縁、複雑な血縁、被差別部落、貧困、暴力……、自らの出自を隠さず前面に押し出す。フーテン、クスリ、ジャズ、セックス……、死者に、自分に、安住の地はあるのか。

「眠りの日々」

 祭りの前日、「ぼく」=あきらは東京から故郷に帰ってきた。地元の友が、東京で面白いことがあったか、と問う。

〈「東京か」とぼくはため息をつく口調で言った。「あすこにおるのはみんな死んだ人間ばっかしやな」〉

 都会のフーテン生活、何もせず過ごし、疲れ、眠り、空腹で目覚める。

……ぼくは性衝動のように体の中にわきあがる飢え、たべるだけではどうしようもない飢えを感じて、思いついたように働いた。でもそれは労働ではなかった。めちゃくちゃに薬を飲んでも、それは決して破壊ではなかった。ぼくはほんとうに自分が死んでしまっているのか、それとも生きているのかわからなかった。〉

 兄の死を思う。母は小2の「ぼく」を連れて「路地」を出た。土建屋の男と同棲する。姉たちは働き出て、一人家に残った兄はアル中になり、首をくくった。自分と母が兄を殺したのだ、と思う。

 地元の友も閉塞感を抱えていた。「厄祓いでもやらかそか」と祭り(勇壮な火祭り)に参加する。

(平野)