2017年4月30日日曜日

東京の編集者


 『東京の編集者 山高登さんに話を聞く』 夏葉社 2300円+税
 
 

詳細はこちら。
http://natsuhasha.com/news/tokyohensyu/

 山高は1926(大正15)年東京生まれ、元新潮社編集者。版画家としても知られる。
 山高への聞き書きに加え、版画作成のために撮影した写真、装丁した本、書票作品を掲載。

《「本づくりについて」
 少しは会社に貢献しなきゃという思いもあったんですが、ぼくの担当する本はだいたいが初版二〇〇〇部か三〇〇〇部でしたね。その代わりというわけではないですが、中身の濃い本をつくってやろうと思っていました。いい本をつくりたいというのがぼくの変わらない願いなんです。(後略)》

 山高の版画。
http://www.seeds-planning.co.jp/yamataka/products/pg001.html

(平野)
 余計なことばかり書く。本書はワールドエンズ・ガーデンで買った。看板猫に久しぶりで会えた。古本屋紹介本で店主は芸能人に似ていると書かれたが、猫に会うために来店するお客が多い。店主よりもえらい存在。暖かい日差しの入る寝台の上で欠伸して、客を見透かす。こちらを。
https://twitter.com/worldendsgarden?lang=ja

 招き猫春眠合間に本を売る  よーまる

2017年4月28日金曜日

せいきの大問題


 木下直之 『せいきの大問題 新股間若衆』 新潮社 1800円+税

芸術作品の男性裸体表現(股間)に着目、「股間」表現の規制と変遷を考察する「股間若衆」第2作。今回は女性裸体も。
 著者は1954年浜松生まれ、東京大学大学院人文社会系研究科教授、文化資源学研究、元兵庫県立近代美術館学芸員。
 なぜ「股間を隠さなければならないのか」、アウグスティヌスやカントまで引っ張り出して考える。まさに大問題。

目次
帰ってきた股間若衆
股間風土記
日本美術の下半身
春画ワ印論
性地巡礼
猥褻物チン列頒布論

 
カバーの絵は雑誌『世界公論』19181月号表紙。裏は河鍋暁斎の春画。
 本書原稿に『股間若衆国語辞典』をあれこれ項目立てて書いたが、編集者に即日却下されたそう。
《こかんわかしゅう【股間若衆】またぐらの表現に意を凝らした男性裸像。日本では絵画よりも彫刻にすぐれた作品が多い。その名に反して若くはない者もけっこういる。(後略)》

(平野)真面目な研究者です。けど、おかしい、おもしろい。

2017年4月27日木曜日

『書店員の仕事』書評


 『書店員の仕事』書評

『書店員の仕事』(NR出版会編・発行、新泉社発売)が共同通信配信で書評掲載。沖縄タイムス、中國新聞、東奥日報など。写真は『山陰中央新報』423日。
 
 

評者は平野の名を出してくださっていますが、強調しているのはNR事務局くららさんのこと。

(平野)今春西宮から島根県に赴任した牧師さんが『山陰中央新報』を送ってくださった。当地の観光パンフレットもたくさん同封してくれて、暇なので楽しんでいる。観光大使?

2017年4月25日火曜日

人文会ニュース&書物復権


■ 『人文会ニュース NO.126』 人文会

 10出版社共同復刊 『書物復権 2017.4』 


 未來社水谷さんが「人文会ニュース」を毎号送ってくださる。今回は「書物復権」冊子も。復刊書目は5月下旬から協力書店で展示販売。
 冊子に大澤聡(批評家、メディア研究者)の推薦文。「やっぱり本は触れないといけない」に納得、反省。

(平野)ほんまにWEB「奥のおじさん」更新。

2017年4月18日火曜日

紙つなげ!


 佐々涼子(ささ りょうこ) 
『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』 ハヤカワ・ノンフィクション文庫 740円+税 

 20146月早川書房から単行本。

 東日本大震災で壊滅的な被害を受けた製紙工場復興過程を追う。この工場は年に100万トンの紙を生産する。これは同社販売量の4分の1にあたり、同社が我が国の出版用紙の4割を担っている。すなわち、石巻工場が動かなかったら日本の出版が止まってしまうということ。当日出勤していた従業員は全員無事だったが、工場に津波が押し寄せ、建屋内・機械にも瓦礫が流れ込んでいた。ご遺体もあった。

 石巻工場の規模は大きい。敷地面積約33万坪、各建屋まで貨物の線路が何本も引き込まれて、製品を直接輸送できる。従業員514名(震災時)、協力会社を含めるとその3倍の人が工場内で働いている。最新鋭の機械を導入し、世界最大級の生産量。その最新機N6という機械(2007年稼働)は630億円かけて開発、全長270メートル(戦艦大和並み)、11000トン以上を生産する。工場長は会社のシンボルであるN6を最初に動かすことで復興の士気があがる、従業員・家族が救われる、地域も活気づく、と半年復興を宣言する。しかし、動かすのは古い機械8号(1970年稼働、全長111メートル)に変更。この機械は単行本・文庫の本文用紙、コミック用紙を製造していた。〈出版業界が8号を待っている〉というのが本社の言い分。なにせ「4割」だ。N6はチラシやカタログ用の薄い柔らかい紙を製造、また、システムが複雑なことから半年で動かすのは厳しかった。
 震災から半年、914日、8号稼働。

《抄紙機には何箇所か、オペレーターの操作によってシートを渡さなければならない箇所がある。(中略、オペレーターがエアーを吹き付け、薄い繊細な紙の向きを調整)/これらの作業を経て、最後のリールに巻きつくまでを「通紙」、あるいは「紙をつなぐ」という。》

 通常の操業よりもスムーズに「通紙」。1時間かかるところが28分という新記録。工場長の宣言通りの半年復興だった。
8号の親分」(抄造一課係長)のことばを紹介する。
「いつも部下たちには、こう言って聞かせるんですよ。『お前ら、書店さんにワンコインを握りしめてコロコロコミックを買いにくるお子さんのことを思い浮かべて作れ』と。小さくて柔らかい手でページをめくっても、手が切れたりしないでしょう? あれはすごい技術なんですよ。(後略)」
「衰退産業だなんて言われているけど、紙はなくならない。自分が回している時はなくさない。書籍など出版物の最後のラインが8号です。8号が止まる時は、出版がダメになる時です。(後略)」
 N6は震災一年目、2012326日稼働した。
 決断を下すリーダーや各部署の責任者、キーマンたちだけではなく、名前の出ない多くの人たちが紙を造っている、出版を支えている。

《紙には生産者のサインはない。彼らにとって品質こそが、何より雄弁なサインであり、彼らの存在証明なのである。》

(平野)
「元」とはいえ、私は業界の末端の隅っこにいたのだから、「単行本で買えよ!」と己に突っ込む。
 古本愛好家・高橋輝次さんの新刊、もうすぐ出る。『編集者の生きた空間 東京・神戸の文芸史探検』、論創社より。海文堂のことにも触れてくださっているそう。


2017年4月15日土曜日

NR新刊重版情報


 『NR出版会新刊重版情報』 Vol.492 NR出版会事務局発行

 毎月NR出版会が書店・図書館に送付している出版案内。先日紹介した『書店員の仕事』(同会発行、新泉社発売)は本紙一面に連載していた。今号から新連載「本を届ける仕事」が始まるみたい。平野が寄稿しているけれど、事務局くららさんからの話は「旧連載と新連載の狭間で何か書け!」だったとボケボケ頭はうっすら覚えている。どっちにしても、また恥ずかしくもなく登場。そのうち同会のサイトに掲載されると思う。


(平野)
 

2017年4月13日木曜日

ぼくの東京全集


 小沢信男 『ぼくの東京全集』 ちくま文庫 1300円+税

 昨年末から小沢の本が続いていて、ありがたい。
 東京をテーマにした紀行文、エッセイ、小説、人物評伝、書評、詩、俳句をまとめる。「一人の作家が書き続けた65年分の東京文集」(帯)。30代の編集者が担当した。

《長生きはするものだな。弱年よりほそぼそつづけてきた六十余年の文業を、一冊でおおよそ通観できる本が編んでいただけようとは。》

第一章 焼跡の街  東京落日譜 女の戦後史・パンパン 敗戦と古本 他
第二章 感傷から骨灰へ――街を歩く  新東京感傷散歩 東京逍遥篇 他
第三章 わが忘れなば――小説集  わが忘れなば 昼と夜の境い 他
第四章 記憶の街角  ちちははの記 日比谷公園の鶴の噴水 他
第五章 東京の人  悲願千人斬の女――松の門三艸子 消えていった人、阿部定 他
第六章 東京万華鏡――ぼくの読書録  佐多稲子の東京地図 他
第七章 街のこだま――俳句と詩  句集 東京俳句 街のこだま 他
解説 池内紀

「東京落日譜」 東京大空襲の3日後友人たちと焼け跡を歩き回った体験を後年執筆(58年、「ヤモン」は架空)。
 信男少年は同級生ヤモンと被害地見物に出かける。家は空襲を免れた。動員先の工場で既に見物してきた同級生から様子を聞いていた。彼らは親類の見舞いとか用足しの途中とか弁解して、惨状を伝えた。
《罹災地をただ見物にゆくのは、怪しからぬ真剣味のない非国民的態度だと思うことに誰も異議はなかったのだ。》

 山手線神田駅下車、焼け跡へ「浮かれた足どりで歩み入った」が、広く静かな焼け跡は「季節外れの汐干狩」のよう。焼死体を見て「韋駄天走りに」走った。何台ものトラックに死体が積み上げられている。ヤモンが猿の丸焼けのようだと言う。後ろを歩いているヤモンも丸焼けになっているのではないかと不安におそわれる。乾パンをかじりながら坂道を登ると小さな映画館があった。映画に出てきた食べ物の話をしながら電車に乗る。乗客たちは疲れきってだまりこんでいる。陰陰としている。
《車中に陰々は充満し、衣服を通してぼくの体内にも侵みこみ、ぼくは膝がくずおれそうで、真鍮棒にしがみついた。》

 乗り換えのホームでヤモンが電車とホームの隙間に落ちてしまう。引き上げようとするが空腹で力が出ない。駅員も乗客も助けてくれない。やっとのことでふたりは電車に這いずりこんだ。
《首をあげると、乗客たちはこちらを見るのか見ないのか、眼や耳をなくしたしわくちゃの猿の顔が、蝋燭の灯ほどの仄明かりにずらりとならび、笑い声さえきこえなかった。いったい彼らは生きているのか。/そうして電車は、四つん這いの二匹の猿と、座席にならんで坐った猿たちをゴットンと一揺りゆすっておいて、陰々と大東京の闇の中を走りだした。》

(平野)
 神戸空襲の体験記でも、若者たちが大人たちの無気力・腑抜けぶりを書いていた。圧倒的な被害に遭って大人はすぐには立ち直ることはできない。

2017年4月4日火曜日

旧グッゲンハイム邸


 森本アリ 
『旧グッゲンハイム邸物語 未来に生きる建築と小さな町の豊かな暮らし』 ぴあ 1500円+税

 神戸市垂水区塩屋町、かつて居留地で働く外国人の住宅や別荘地として発展した。狭い平地には国道、JR、山陽電車が並走している。

……海と山の間が非常に狭い地形にあり、車が通れないような(そして傘を差したままでは人もすれ違えないような)細い道に商店が並ぶ、昔ながらのとても小さな町です。南は海に面しており、すぐ北側は山なので、どこを歩いても坂!坂!坂! その分、町を歩けばいろんなところから海が見えます。》

 旧グッゲンハイム邸は、1909年に建てられたドイツ系アメリカ人貿易商の邸宅
 多くの洋館が住む人もなく荒れ、挙句解体され、マンションや駐車場にされている。旧グッゲンハイム邸も老朽化し、売りに出されていた。
 
 森本は塩屋育ちの音楽家、2007年に家族でこの洋館を購入し、管理人となり、引き継いだ。本書は、引き継ぐまでの過程、その後の再生を報告し、さらに塩屋地域の人たちとまちづくりを考えていく。
「旧グッゲンハイム邸」は修復を続けながら、音楽イベント、カルチャー教室、パーティーなど多目的貸しスペースとして運営している。敷地内の長屋では約10名がシェアハウス生活。世界中から「ちょっと変わった音楽家たち」がやってきて、演奏し、食事をし、泊っていく。
http://www.nedogu.com/
 
(平野)
 サマセット・モームの短篇「困ったときの友」に「塩屋クラブ」「垂水川」が登場する。楽しい話ではない。貿易商が落ちぶれた男に仕事をやる条件として遠泳をさせるが、男は溺死。
『コスモポリタンズ』(ちくま文庫所収)。

2017年4月2日日曜日

海鳴り


 『 海鳴り 29 』 編集工房ノア 非売品

 編集工房ノアが毎年発行する総目録兼PR冊子。

蛙池村のこと  庄野至
「季節」を出していたころ  山田稔
日常から(十二)  貞久秀紀
夏の詩人(17)真価と贋値  萩原健次郎
暮らしのなかで  真治彩
湖国から加賀路へ  三輪正道
能登路  定道明
芦刈  大塚滋
伊勢田さんの家  涸沢純平
表紙絵  庄野英二

 海文堂閉店以降、京都に行ったついでに三月書房でいただいていた。今年は先月の本イベントでノアの本を置かせてもらった関係で直送してくださった。
 ノアの本を店頭に置いている本屋は少ない。ジュンク堂書店堂島本店では広いスペースで展開していたが、315日をもって撤退したそう。涸沢社主は「ひとえに当方の事情」と書いている。私は堂島本店には年に数回しか行かないが、このコーナーが楽しみだった。

(平野)
ヨソサマのイベント
 第十二回サンボーホール ひょうご大古本市

47日(金)~9日(日) 
10時~19時(最終日18時まで)
神戸三宮サンボーホール1F大ホール

主催 兵庫県古書籍商業協同組合 
http://www.hyogo-kosho.net/



2017年4月1日土曜日

落語推理迷宮亭


 山前譲編 『落語推理迷宮亭』 光文社文庫 880円+税

演目
変調二人羽織  連城三紀彦
貧乏花見殺人事件  我孫子武丸
崇徳院  伽古屋圭市
幻燈  快楽亭ブラック
落語家変相図  大下宇陀児
落研の殺人  那伽井聖(秋梨惟喬)
落語 味噌漉し  結城昌治
擬宝珠  都筑道夫

 落語好きの作家が落語家を主人公にした作品、古典名作落語「その後」噺、大学の落研殺人事件、それに明治の外国人落語家・快楽亭ブラックの創作落語。  
 本書の解説で、落語とミステリーの深い関係を知った。

《じつは、落語とミステリーはもともと深い縁があるのだ。時はグッと遡って明治の世、江戸の末期から活躍して近代落語の祖と言われる三遊亭円朝が、「松乃操美人廼生埋(まつのみさおびじんのいきうめ)」や「黄薔薇(こうしょうび)」といった翻訳ミステリーを高座にかけたのである。》

 ブラックのミステリー落語は海外作品の翻訳ではなくオリジナルで、出版もされた。落語から少し遅れて、黒岩涙香が海外の探偵小説を紹介する。昭和初期になって、浜尾四郎や大下宇陀児が落語とミステリーに注目する。戦後は都筑道夫(兄は落語家、若くして亡くなった)、結城昌治、山田正紀、連城三紀彦、泡坂妻夫、北村薫……、まだまだいる。
 落語には怪談あり、お裁きものあり、謎解きもある。落語とミステリーは相性がいいらしい。

(平野)