2024年3月17日日曜日

夜露がたり

3.14 家の名義変更について法務局に相談する。係りの方は親切に応対してくださる。ここでわかったように聞いていても、帰ったら何やったか、となること間違いない。わかるまで何回も行くことになるだろう。

 先日、昼間に元町商店街で解体工事中の足場が倒れて負傷者が出た。今度は、夜乗用車が侵入、暴走して清掃作業車に衝突。暴走車助手席の人が死亡。物騒。

 突然某所から高額商品券が送られてきた。気色わるいので返送することにする。

3.16 好天、墓参り。

帰宅して買い物。街ゆく人たちはほとんど春の服。

BIG ISSUE475、特集「生きのびるデザイン」。本屋さんでプロタリア小説(文庫)とイラストレーター(故人)のエッセイ。

 


 砂原浩太朗 『夜露がたり』 新潮社 1750円+税



 時代小説。これまでの作品は武家ものだったが、今回は江戸市井もの8話。人情小説というより暗い辛い話が多い。唯一「妾の子」が先に幸せがありそう。

妾の娘・るいが父親に引き取られて縁談。相手の男・繁蔵の態度は冷たく、怖い。「妾の子」と軽蔑されていると思う。昔の男がるいを強請ってくる。縁談相手が現れて、「――俺も妾の子でな」。

〈「妾の子どうしだから分かる」繁蔵はそのまま、ひとことずつ押しだすようにいった。「――なんと調子のいいことはいわねえ」/るいは、淡い光を透かすようにして男の面を差し覗く。がっしりと顎の張った口もとが、わずかにゆるむのが見えた。/「だが、ほかの奴らより少しはましだろうぜ」(後略)〉

 人は生れ育った境遇から逃れられないのか。定めとあきらめるのか。望みやを持ってはいけないのか。他人を蹴落として生きるのか。

貧乏、ろくでなしの親や男、日陰の身、犯罪、恋……。抜け出さそうとする者、流れに身を任す、あがいてもがいて道をはずしてしまう者、悪に徹する者。せめて何か頼りになるものがほしい。「そこに愛はあるんか~?」。

カバーの絵は歌川広重「名所江戸百景・両国花火」。

 ヂヂイは物語にハッピーエンドを望むが、実人生がそうなるわけでもない。わかっているけれど、やっぱり明るい未来を期待する。

(平野)

2024年3月14日木曜日

飛ぶ男

3.12 お彼岸前に墓参しようと思ったが雨、週末に延期。花壇のさくらんぼの花散る。

3.13 ヂヂ帰宅前に孫電話あったそう。春休み神戸に来るとのこと。やかましい、うるさい、さわがしい、ドタバタ姉妹と過ごせる。ヂヂバカちゃんりん。

 よそ様のお子さんのこと。先日紹介した小さな詩人ちゃんの姿がSNSにあり。おしとやか。

 古書タカさんから神戸文学の資料届く。毎回ありがたく。


 安部公房 『飛ぶ男』 新潮文庫 590円+税



 1993年安部公房急逝後にフロッピーディスクから発見された遺作、未完。94年単行本化のときは夫人が加筆改稿したそう。今回元原稿のまま文庫化。

 夏の日の早朝、「人間そっくりの物体」が飛行。気球か、ハングライダーか、低速で正確な直線飛行。人間? 夢遊病者? 裸足、パジャマ風の着衣、眠っているわけではなさそう。携帯電話で話している。

〈どうやら《飛ぶ男》の出現に立ち会ってしまったようである。〉

 目撃者は3人。一人目は29歳独身女性、男性不信、護身用に空気銃を常備。《飛ぶ男》を撃つ。二人目は暴力団員、持病のため利尿剤常用、明け方の尿が習慣。通報の義務を感じるが、社会奉仕は似合わないと放置。三人目は不眠症の中学教師、《飛ぶ男》の電話相手、腹違いの兄弟らしい。話の中心は《飛ぶ男》と三人目の関係、一人目が絡む。二人目はどう登場する予定だったのか。

 本年は安部公房生誕100年。来月も未発表作品と全集未収録短編を収録した文庫発売。映画「箱男」公開予定。

(平野)

2024年3月12日火曜日

本屋のミライとカタチ

3.10 「朝日歌壇」。

〈新しき地図買いにゆく新しき生活(くらし)始める子の住む町の (高槻市)藤本恵理子〉

〈白樺の根方に古き辞書を埋め学寮去りぬ帰国の朝に (羽村市)竹田元子〉

『みすず 読書アンケート 2023 識者が選んだ、この一年の本』 みすず書房編・発行800円+税)

 昨年まで「月刊みすず」年初号で刊行。同誌休刊により、書籍扱いで引き継ぐ。今回は139名の識者が回答。だいたい皆さん1ページくらいで答えているけれども、3ページ、4ページと力の入る人がたくさん。ヂヂは専門書に手が出ないけれど、56冊読んだ本あり。読めそうな本を数冊メモ。

 


3.11 東日本大震災13年。災害はどこにでも起こる。10日は東京大空襲から79年。日本中の都市・市民が焼かれた。黙祷。

 関係各所に「陳舜臣」図版資料転載をお願いする。神戸華僑博物館から編集担当の業界新聞社を教えてもらい、そこから著作権所有の商社に繋いでいただいた。皆さんのご助力・ご協力に感謝。

 北田博充編著 『本屋のミライとカタチ 新たな読者を創るために』 PHP研究所 1700円+税



 著者は梅田蔦屋書店店長。本屋閉店が続く。年々本の売り上げは減っている。本は、本屋は、これからどうなるのか。著者は、業界が内向きで、内側からしか考えていない、と思う。遠回りだが、「本屋とは何か」と問い直すことから始める。

本をよく読む人、本屋の顧客だけではビジネスは成り立たない。新しい読者を開拓し続けなければならない。著者、出版社、取次会社、本屋は「狭義の本屋」。図書館、教師、書評家のほか、本を紹介したり、魅力を伝えてくれる人たちなど、本への入口を広げてくれる人たちは「広義の本屋」だ。SNSで発信して若者の支持を得ている人もいる。「狭義」「広義」どちらも重要な仕事。そして、他業界で入口を広げる手法を実践して成功している人に訊いてみる。

 インターネットやSNSで情報も娯楽も満喫できる時代。街中でも電車内でも、立っていても座っていても歩いていても、多くの人がスマホに見入っている。紙の新聞や雑誌・本を読んでいる人は数えるほどしかいない。紙媒体はすぐには消えないだろうけれど、確実に減少する。それでも現役書店員は紙の本・雑誌を販売していかねばならない。経済生活のためだけれど、それ以上に本と本屋が好きだから。本屋の未来を明るくするために、できること・するべきことを提案する。

(平野)引退ヂヂイは本を買うことしかできない。現役の人たちにあがいてもがいて本屋を開き続けてもらうしかない。

2024年3月10日日曜日

はじめの言葉に耳をすます

3.7 栄町通(通称乙仲通)の本屋さん〈1003〉。若いお客さんが多いので、ヂヂがウロウロチョロチョロするのは憚られる。店主さんにこっそり本を訊ねる。出してもらったのは下記の本。

3.8 鳥山明さん訃報に世界中から追悼のことば。

3.9 大相撲大阪場所がはじまるので、新聞の番付表をコピーして孫に送る。姉妹一枚ずつ必要。

先日紹介の衣巻省三『黄昏學校』の奥付に本書取次会社掲載。東京は東京堂他8社、名古屋2社、京都と九州各1社、大阪は福音社、柳原書店、暸文館の3社。最後の「暸文館」は戦後海文堂書店の元大番頭・清水晏禎(やすよし)さんの父親が経営していた。

 

 山形梢『はじめの言葉に耳をすます』FONS550円税込)



母が愛娘の発した言葉を記録。2歳半から4歳半にかけて。

〈すべての生きているもの・生きていないものとの対話。/知っているかぎりのことをつなぎあわせて生まれる思いがけない文脈。/あらゆることに感じるふしぎと探求心。〉

「はな」

〈はる は/き や くさ に/はな をかけていくのが/おしごと なんじゃない?//いま いろをさがしているんじゃない?/なんのいろにしようかなって〉

「かぞく」

〈なかなか かぜ よくならないね/かわりに おかぜ もらってあげようか ぱくっ//ままも あかちゃんになっていいよ(だきしめてくれる) (後略 パパのことも)〉

 季節の移り変わりや自然に感じたこと、毎日の生活で思ったこと。こころ、きもち、じかん、うまれる、しぬ、それに、たべもの、うんち……かわいい詩人さん、哲学者。絵もあるから、アーティスト。ご両親に暖かく包まれている。

(平野)ヂヂはアラレちゃんのファン。「ばいちゃ」。

2024年3月7日木曜日

黄昏學校 ツワイライト・スクール

3.5 本日の「朝日川柳」より。

〈裏金も小金もないが納税者 兵庫県 西田祥一〉

3.6 「みなと元町タウンニュース」379着。Web版も更新。

https://www.kobe-motomachi.or.jp/motomachi-magazine/townnews/

 拙稿は、1929年に西村貫一が同人誌「薔薇派」に寄稿した書物随筆紹介。次回「西村旅館」最終回。

 

 衣巻省三 『黄昏學校』 版画荘文庫 

昭和12年(1937) 定価50銭 

神戸市立中央図書館所蔵。表題作と「へんな界隈」収録。





 版画荘文庫については小田光雄ブログ「古本夜話4592015.3.9)」をご覧ください。

https://odamitsuo.hatenablog.com/entry/20150309/1425826855

 

「黄昏學校」。文中では「ツワイライト・スクール」のルビ。



 主人公・岸裕子は新月女学院の音楽講師、英会話も週1時間担当。教会を手伝う母とふたり暮らし。亡父は学院の元院長。父母とも神学研究者、かつて一家はカナダで生活した。

学院の場所は神戸東部の丘陵地帯。現在の灘区青谷あたり。

 放課後黄昏迫るまで、裕子は音楽室でピアノを練習する。空はまだ明るく、窓から彼方に港の外国船が見える。いつもどおり弾いていると何かの気配を感じる。「脚もとから燈火が消え去ったような味気ない不安がに甦ってくる」。生徒たちがつくる雑誌「新月」掲載の作品「黄昏學校」を憶い出す。放課後の教室でその作者は友と希望を語り合い、校庭の片隅で戯れる。

……三階の音楽室では、赤い室内靴を穿いた加奈陀帰りのミス・Kが、ピアノの練習をするのが聴かれるのでした。ソプラノの美しい肉声が私の疲れた皮肌や心を慰め、私たちは外人教師の住宅や、篠懸木(プラターヌ)や、チューリップのある芝生に憩うて聴くのでした。(略、Kの歌とピアノがやむと作者は家路につく)市街の背後にある六甲・摩耶の山上ホテルの窓々に灯がともり、それが港の船舶の燈火と星のごとく呼応するいつもの哀しい夕べでした。私たちの感情はミス・Kの声や姿に耽溺しだしたことを知るのでした。これが私たちをして黄昏を愛するようにした所以かも知れないのです。そのうち誰が言うともなく、私たちは私たちの學校を黄昏學校(ツワイライト・スクール)と呼びだしたのでした。(後略)》

 裕子はずっと見られていることに怒りを感じる。

 古い表現だけれど、「女の園」での出来事。女生徒・里子は裕子に憧れている。裕子は里子といっしょにいる瑞芽子(みずめこ)の方に好意を持つ。また別の女生徒と男性教師の恋愛事件が起きる。裕子は母に牧師補との結婚を勧められている。

 裕子は英会話の授業で里子に意地悪をする。結果、里子はショックで寝込んでしまい、病む。

「新月」に里子と思われる匿名の詩が載る。

――私はいつも心の森に隠れる。(略)何処からともなく魔女の歌がする。(後略)》

 裕子は心乱れ、ピアノの才能がそこを知れたもののような気がして、特権的立場にいる自分を忌々しく思う。「魔女」とは自分のことだ、と。学院をやめる決意。学期の終わり、里子の死亡通知が届く。

 青谷の女学校というと、松蔭か、海星か。「黄昏學校」はプロテスタントのよう。松蔭はイギリス国教会、海星はカトリック。プロテスタントだと神戸女学院だが、場所が離れる。特定の学校をモデルにしたのではなさそう。

「へんな界隈」には足穂らしき人物「稲若」が登場する。ダンスホールに居ついて原稿書き。財産はトランクひとつ。

……その中には、バネ付きのシルクハットや、今迄発表された原稿や、子供を喜こばせる銀のピストルや、ボール紙製の星や月や三日月や、ペン、インクは言うに及ばず、魔術の書物や、天文学の本などが、ごっちゃに入れてあった。(後略)〉

「鼻眼鏡」で有名な美男子。ダンス教室の女性たちにもてるが、女嫌い。

引用文は適宜新字・新かなに直した。

(平野)

 

2024年3月5日火曜日

つげ義春流れ雲旅

3.4 溜まっている本や家の用事にとりかからねばならない。まずは確定申告、年金受給・パート安月給でも税金払う。ところが、ドジして税務署まで二往復。情けない。これはきっと近くのギャラリー島田に行けとの神仏の思し召し、と理解。今年はまだおじゃましていなかった。スタッフさんや社長と世間話。

 しばらく更新のなかった読書人ブログを昨日久方ぶりに開いたら、昨年末から再開の様子。どんな事情があったのか不明だけれど、また読めるようになってうれしい。もうひとつ止まっているブログがあり、気になる。

「BIG ISSUE」474号。特集〈ふくしまの13年〉。「福島の人々や地域、自然と向き合い、自身の仕事や研究、支援活動に取り組んでいる人たち」が「この13年、そして今の福島の断片」を語る。

 


 つげ義春 大崎紀夫 北井一夫 『つげ義春流れ雲旅』 

朝日新聞出版 2600円+税



 1971年朝日ソノラマより単行本の復刻版。1969年~71年に「アサヒグラフ」掲載の旅と鼎談、73年・75年「グラフィケーション」(富士ゼロックス)掲載の旅、73年「るうじん」(豊島書房)の放談会収録。新たに、大崎「異空間への旅人・つげ義春」、「鼎談+1 五十年目の『流れ雲』」(3人+つげ長男)を掲載。

 大崎は朝日新聞社の編集者を経て俳人、詩人。北井は写真家。

 下北半島ほぼ一周、東北湯治場、豪雪の北陸、四国お遍路旅などなど、何かはあるが何もない場所。名所・名湯を求めず、観光せず、ただただ歩き、村・集落を訪ねる。凡人には現実の向こうのにある遠い世界のように思う。そこには土地の人たちの暮らしがある。

 北陸の山村の宿で夕食にヒエめしを出してもらう。おかみさんはヒエ2合米8合を炊いてくれた。昔この村の人は町に乞食をしに出た。彼らはヒエを食べたろう。旅の3人が食べているのは「あくまで珍味としてのヒエ」。たとえそれぞれに貧困体験があるとしても、自分たちはこの村の先人たちの〈こころ〉を食べることはできない、と思う。

〈わたしたちが〈旅人〉であるとき、わたしたちは〈風景〉に向って歩き、〈風景〉とふれあい、そして〈風景〉を通すぎていく者だ。風景あるいは土着の生活に対してわたしたちはわたしたち〈旅人〉のもつまなざしにひとつの決意をこめざるを得ないのだ。わたしたちが風景=生活者のまなざしを内部に持ち得るなどと考えるのは、おそらく愚かしい空想だ。〉

 それにしても、50年以上前につげ義春がメジャーな雑誌に登場していたとは知らなかった。

 4月にも筑摩書房から旅本が出る予定。

(平野)

2024年3月3日日曜日

幾世の鈴  

 3.2 午前中図書館。元町原稿は4月掲載分で「西村旅館」終了。17回もかかってしまった。さて次回から誰にするか。

先日紹介した衣巻省三の『黄昏學校』(版画荘文庫、昭和12年・1937年)貸出可で、ありがたいこと。

3.3 「朝日俳壇」より。

〈如月の兜太の遺影書架にあり (川口市)青柳悠〉

 ひな祭り。お雛様も読書、下記写真。

 

 髙田郁 『幾世の鈴 あきない世傳 金と銀 特別巻 下』

ハルキ文庫 700円+税



 シリーズ13巻終了して、その後の登場人物たち、主に脇役たちを主人公にしたスピンオフ作品集2冊目。脇役もみんな魅力がある。作者のサディストぶりは健在。時の流れによって、年配の登場人物が亡くなるのは仕方がない。でもね、若い歌舞伎役者の二代目菊瀬吉之丞を急死させてしまうのは腹立つ。さて、内容。

1. 大阪本店八代目店主・周助の決断。

2. 四代目の元妻で幸の盟友・菊栄(きくえ)の新たな商品開拓。

3. 幸を裏切った妹・結(ゆい)。ライバルとなるも失脚、江戸を追われ播磨に。

4. 五鈴屋創業100年を迎え、還暦の幸と夫=九代目・賢輔が次の100年に向けて後進に残すものとは。

 読者としては次の物語を待ちたいが、まだまだこのシリーズの続きも読みたい。作者も、〈作家として「描きたい」「書かずにいられない」題材が私にはあります〉とのこと。また「タイミングを見計らい、五鈴屋の後継者たちの物語を、不定期にお届けしよう」とも。我らは待つしかない。

(平野)