2023年12月31日日曜日

小さな町・日日の麺麭

12.29 マンション仕事最終日。

国会図書館に依頼していた西村貫一原稿コピー届く。文藝雑誌「薔薇(そうび)派」19292月号、同年3月号、計6ページ。要領がわからず、表紙や目次、奥付まで気が回らず、本文のみ申し込んだ。

“Random Thoughts on Books 「書籍」「讀書」「書狂」

 紹介は年明けに。

12.30 孫妹、ママとお出かけなのにご機嫌斜め。お気に入りのスカート洗濯に怒っている。ヂヂババがなだめてもダメ。ママが一喝、着替えさせる。母は強い。

12.31 ヂヂ2023年最後のドジ。最寄駅の改札入ったところで買い物の予約券を忘れたことに気づく。トホホのホ。駅員さんが「いいですよ」と出してくれ、家に戻り、駅再入場。最終日の失敗を厄落としと考えよう。

 どうぞ皆様良いお年をお迎えください。

 

 小山清 『小さな町・日日の麺麭(パン)』 ちくま文庫 

1000円+税



 小山(191165年)は東京浅草生まれ。プロフィールを見ると苦労の多い人生。関東大震災に被災、家庭環境に恵まれず、職業転々。市井の人びとの生き様や裏と表、ささやかな幸せ・喜びを知る。自分の弱さにも目を向け執筆した。

不遇ながら、ビッグな人物たちと出会っている。震災で賀川豊彦の救済活動に感銘し、後に賀川を頼って家出。尋常小学校の教師の世話を受け、その友・中里介山のコミュニティに参加。島崎藤村日本ペン倶楽部会長の紹介で事務局勤務。ここで現金着服事件を起こして服役。出所後、新聞販売所で働く。この頃に太宰治を訪ね、作品を見てもらうようになる。太宰を通じて井伏鱒二を知る。戦後は夕張の炭鉱で働く。

「風貌――太宰治のこと――」より。

 小山は空襲に遭い、三鷹の太宰宅を頼る。太宰は妻子を甲府の実家に疎開させることに。

……その前の晩太宰さんは私を相手にのんでいたが、ふと傍にいた奥さんに「みち子、お前ものめ。」と云って盃をさされた。そして盃を口にあてている奥さんに向かって、「離れてつくということがある。」と云われた。(後略)〉

 しばらくして太宰も甲府に向かう。小山も同行して、疎開中の井伏を訪問。井伏行きつけの旅館でのこと。

……井伏さんはおかみに「なにか液体のようなものを。」と云い憎くそうに云った。井伏さんは卓袱台の上を手の平でさすりながら、うつむいて小声で云ったのである。私は井伏さんっておかしみのある人だなと思った。(後略)〉

戦時、「液体のようなもの」はそうそう手に入らない。井伏は女将が好みそうな話題を探す。女将のであろう映画雑誌をめくりながら、「金色夜叉」の記事を見つけて話を振ると女将も参加。結果、女将は「液体のようなもの」を都合してくれた。

二日後、小山はひとり三鷹に戻る。

……太宰さんは、「君の手はいやにねばっこいね。」と云いながら、私の手を握って、「離れてつくということがある。」と私にも云った。〉

 井伏のテグスをつくるために、太宰が虫を捕まえ、むしる。眉根をしかめ、固く目をつぶり、唇青ざめ、ふうふう息を弾ませ、卒倒しそう、まさに泣き出しそう。小山はふたりの親密な師弟関係を「執拗な愛情」と語る。

(平野)

2023年12月30日土曜日

趣味の近代層

12.23 家人は友だちとバス旅行、息子も午後出かけて、ヂヂ留守番・買い物班・料理番。

 お歳暮いただき、礼状発送。年賀状も作らねば。

12.24 「朝日歌壇」より。

〈「エンディング」「終(つい)の」「一人の」我の今日借りて帰りし本の背表紙 (松山市)宇都宮朋子〉

12.26 墓参り、比較的暖かで助かる。年賀状投函。

12.27 娘と孫二人帰省。壮絶ハイパワーのちびっこ台風襲来。ヂヂババ体力・精神力どこまでもつか!?

12.28 みんなでランチして、本屋さん、デパートおもちゃ売り場。

 

 『趣味の近代層』 朝日新聞社 昭和51930)年3月発行 

定価1円






昭和初め「アサヒグラフ」連載「趣味講座」をまとめる。

執筆者は昭和初期の学者、知識人たちでしょうが、目次を見て私が名を知るのは、伊東深水(日本画家、18981972年)と吉田謙吉(舞台美術家・考現学、18971982年)のみ。

神戸市立中央図書館所蔵。閲覧用に補強してあるが、原本は軽装版。よく見ると、表紙と341ページ裁断ミス、「福紙」「戎紙」。グラフ雑誌らしく、どの文章にも写真多数掲載。  

私の目当ては、西村貫一「蔵書標に表れた言葉」、昭和41023日号に掲載。先日同誌の写真を掲載したが、改めて。同時期別の雑誌に寄稿した文章には詳細な書誌はあるものの、写真なし。









 仲田定之助「今日の建築」に〈バルセロナの聖家族寺院(建築家ゴーヂ作)〉の紹介あり。聖家族寺院に「テンプロドラサグラダファリミア(ママ)」とフリガナ。

「これは建築家ワ゛ヰラールの遺業を繼いで、建築家アントニオ・ゴーヂ(一八四七――一九二一年)が畢生の力を盡くして略(ほぼ)完成したものです」と解説。アントニオ・ガウディのサグラダ・ファミリア。



(平野)元町原稿で「西村旅館」「西村貫一」を取り上げて1年を超えた。まとまった知識・資料があっての連載原稿ではないので、あっち行ったりこっちに戻ったり。行き当たりばったりの自転車操業。そろそろオチをつけないと。

 

2023年12月23日土曜日

百年の藍

12.21 孫たちはカゼが長引いていたけれど、完全回復。ヂヂババプレゼントはまだ包装したまま。姉はクリスマスに開けるつもりで、何が入っているのか楽しみにしている。妹はもっぱら「食い気」、ママに「なんか食べたい食べたい」と訴えている。ヨソサマからみれば、「子に食わしてないのか?!」と怒られそう。いくらでも食べてしまう。元気な証拠。

BIG ISSUE469。スペシャル企画〈からすのパンやさん50周年〉。エッセイ特集〈行ってみたい、あの町この町〉。

 


 年始用の原稿、元町と「ひょうご部落解放」やっつけて送信。

12.22 仕事中、冷たくて指先が痺れる。去年暮れから冬中手足凍傷、痛かった。今年は注意してヂヂ肌ケア。

 増山実 『百年の藍 100Years of Indigo』 小学館 2000円+税



 岡山の繊維業・鶴来家の人々100年の物語。足袋製造から始まり、学生服・セーラー服、軍服、再び学生服。戦争から平和へ、時代の大波小波に乗り、また翻弄され、未来に向けて切り開いて行く。素材も変わる。綿花から化学繊維。

大正期、恭蔵は岡山出身の画家・竹久夢二の青・藍色に憧れ上京。運良く書生になれるところで関東大震災に遭遇。面倒見の良い俥屋・政次と孤児りょうと生き延びる。恭蔵はアメリカからの救援物資Gパンを手にする。その青・藍色=インディゴのズボンを自分で作りたいと考え、故郷に戻る。色・製法の謎に挑む。その挑戦はりょう、孫・ひ孫の世代に受け継がれる。

(平野)

セ~ラ編集長から本書に海文堂登場と教えてもらった。さてどうつながるか。青・藍色は阪神淡路大震災被災のブルーシート。そのルーツは岡山畳・花ゴザ。

震災より前にりょうは事業から引退して神戸で暮らす。元町に取引先があった。そこで「海会堂書店(かいえどう)」の看板を見つける。

「海に会うで、海会堂や。あたいは、ええ名前じゃなあ、と思うて、港町のその書店に入ってみたんじゃ。商店街の中の本屋にしては、結構広い店やった。百坪近くはあったかなあ。二階建てでな、平台や棚を見たら、品揃えが、他の書店とは違う。(中略、りょうは女学生の時親類の古本屋に下宿し働いた)ええ書店には、ええ書店の匂いがするんじゃ。古書店なんかは、店主の色がそれぞれ棚に現れて特徴があるもんじゃけど、そこは新刊の、しかもそこそこ大きい書店じゃのに、棚に表情があった。何より、店の名前からして、表情があるじゃろう」

 船の本、フランス語・カイエの説明、「杣田社長」の手作りギャラリーのことと解任の事情まで。著者はかなり事情に通じておられる。 

 りょうはギャラリーを手伝うことに。

2023年12月20日水曜日

江戸っ子の身の上

12.14 午前図書館。司書さんに「アサヒグラフ」所蔵しているか質問すると、朝日新聞データベースの使い方を教えてくださり、昭和4年分を探す。希望の記事入手。みんな親切。写真、「西村貫一 蔵書標に表れた言葉」(「アサヒグラフ」1929(昭和4.10.23号)より。

 


 午後区役所。パートの最低賃金が上がったので国民健康保険から社会保険に移行手続き。案内の人も窓口の人も優しく丁寧。

12.15 仕事そこそこに(ちゃんと働きました!)明日本会の忘年会。4年ぶりに大阪組メンバーも集まる。みんな4年間辛抱したね。もっと頻繁に飲み会をという声(呑兵衛め!)多数あり、次回は桜の咲く頃に、と約束。

12.16 昨夜忘年会でセーラ編集長に教えてもらった本、海文堂が登場する小説、本屋さんにありました。孫の本と一緒に購入。

12.17 「朝日歌壇」より。

〈街なかの丸善に書を買いにゆく翡翠(かわせみ)色のクロスバイクで (京都市)中川大一〉

「朝日俳壇」より。

〈無頼派の作家を惜しむおでん酒 (伊賀市)福沢義男〉

〈半焼けの表紙の女優焚火跡 (栃木県壬生町)あらゐひとし〉

〈気に入りの本と毛布と同じ椅子 (阪南市)春木小桜子〉

〈一ページめくるが如く冬が来る (長岡京市)寺嶋三郎〉

12.19 今週は臨時出勤あり、有給休暇あり、忙しいのか暇なのか、ようわからないけれど、何やかや用事を言いつけられて、やっぱり忙しい。孫にクリスマスプレゼント送る。


 

 岡本綺堂 『綺堂随筆 江戸っ子の身の上』 河出文庫 

900円+税



江戸の芝居話、旅の随筆、従軍記者時代の取材、中国の怪奇話。

名優の弟子で将来を期待された美少年のその後。日本初のインフルエンザ流行。毎年訪れる温泉宿の若い女中たちとの交流。従軍記者の危険、中国善良な苦力(クーリー)たちの思い出などなど。

「お染風」

〈この春はインフルエンザが流行した。/日本で初めてこの病が流行り出したのは明治二十三年の冬で、二十四年の春に至ってますます猖獗になった。我々はそのインフルエンザという病名を知って、それは仏蘭西の船から横浜に輸入されたものだと云う噂を聞いた。しかしその当時はインフルエンザと呼ばずに普通はお染(そめ)風と云っていた。(後略)〉

 なぜ「お染風」か? ある老人の説では、江戸時代によく似た症状の感冒が流行して、その時に誰とは知らないが「お染」と名付けた。綺堂は、歌舞伎・浄瑠璃の「お染久松」の「お染」と推理。お染が久松に惚れたように恋にすぐ感染することから。事実二十三~二十四年には「久松留守」という貼り札が流行した。「お染御免」というのもあった。その後の流行では「お染」は絶えたようだ。明治三十五年、綺堂の父はインフルエンザで亡くなった。

(平野)


2023年12月14日木曜日

蒐集する猿

 12.10 家人と家の中掃除。大掃除まではいかない。

「みなと元町タウンニュース」Web版更新しています。拙稿は西村貫一蔵書票原稿のこと。

https://www.kobe-motomachi.or.jp/motomachi-magazine/townnews/376.php

12.11 古書愛好家・高さんから手紙と古い雑誌の竹中郁随筆1ページ届く。戦後すぐの竹中新聞記者時代(「神港新聞」に1年半在籍)のこと。西村貫一と「神戸人、神戸を愛する会」をつくろうという話。西村は既にへちまクラブを始動、竹中も児童詩誌「きりん」に取りかかる。「会」は実現しなかったが、それぞれが志を持って活動した。

高さんは新刊本準備中、来春予定。

12.13 4年ぶりに職場の忘年会。ベテランさんたちが退職して、顔ぶれだいぶ変わった。

 

 坂崎重盛 『蒐集する猿』 同朋舎発行 角川書店発売 




2000年発行。10月の神保町古本まつりで買った。

 著者は元造園家で、編集者、エッセイスト。いろいろ蒐集家、もちろん古書愛好家。自慢の蒐集品披露。ステッキ、東京本、それに影絵、富士山図、ひょうたん。

 本や紙モノ蒐集はわかる。ステッキにひょうたんとは?

〈なんでステッキなんだ。/そんなこと知るか。とにかく気がつけば、この無用の長物、ステッキに関心を持っていた。〉

 海外旅行先でその国固有のデザインを見つけては入手。「カサばるんだよ」。そうでしょう。

 昭和初期の漫画、漱石、鷗外はじめ作家たちのステッキ話、銀座のステッキ・ガールなど〈ステッキ系の人々〉〈ステッキ文芸〉の数々紹介。

 で、ひょうたん。

〈言い訳するようだが、もともと私自身も、ひょうたんなどに興味をもつはずじゃなかった。/昔、田舎の床の間などにぶら下がっていたひょうたん、妙に爺々むさく、訳知り風で、おさまりかえったような文人臭が、というかワケ知り風の禅味がうっとおしかった。とくに、あのテラッと黒光りするテカリが。〉

 ところが、中国や香港で「ひょうたんそのものではなく、工芸品としての小さなひょうたんの置き物が目につくようになった」。友人知人からもひょうたん類が届く。世の中にはひょうたんに因むものが満ち満ちているそうだ。正統なる美術品は美術館やお金持ちに譲って、「当方は外道に徹するしかない」。

物心ついた頃から「紙片愛好症」「図版フェチ」。

(平野)

2023年12月10日日曜日

出久根達郎の古本屋小説集

12.8 孫姉妹が続けてカゼひいて熱。ようやく快癒して、ひさびさ電話。孫たちはやかましくないとあきません。

「図書」12月号掲載、梯久美子「水俣、石牟礼さんへの旅」。石牟礼道子は『苦海浄土』で水俣病の悲劇を描き、被害者救済に献身した。池澤夏樹は自ら編集する『世界文学全集』(河出書房新社)に三部作を収録。世界文学レベルの作品と位置づけた。

ところが、水俣市では石牟礼道子という作家の存在は「ほぼ消されている」。

〈石牟礼さんが身を投じた水俣病闘争は、長くチッソに依存してきた水俣市にとって市の根幹をゆるがす問題で、住民の多くがチッソを擁護する立場に立った。患者とそれ以外の住民は対立関係となり、患者側に絶った石牟礼さんは、水俣で仕事をすることができなくなったのだ。〉

 

12.9 来週の飲み会出席返事のない人に督促して、会場店主に人数報告。みんなしっかり働いて、体調整えて、週末を楽しみにしてちょうだい。

いつの間にか読む本がなくなって(積ん読本はある)本屋さんに。文庫4冊購入。

 

 出久根達郎 『出久根達郎の古本屋小説集』 ちくま文庫 

1000円+税



南陀楼綾繁編・解説。

出久根は古本屋店主。1993年『佃島ふたり書房』(講談社)で直木賞受賞。

デビュー作『古本綺譚』(新泉社、1985年)は古本屋店主の「古本エッセイ」=実体験――古書のウンチク、お客のこと、商売の成功・失敗など――を書いたものと思っていた。出久根が作る古書目録の文章に注目した編集者が執筆を勧めた。小説集と口をすべらせてはいけない、無名の人間の小説は売れない、と釘をさした。編者の南陀楼を含め多くの読者が見事に引っかかった。

「書棚の隅っこ」より。

 語り手は店に長くある『貧乏の研究』という本。店の主人が少年時代の本・本屋のことをお客と雑談。行きつけの本屋のおばさんは子どもの立ち読みを許し、他のお客の苦情を受け付けなかった。少年は店に入ってくる人を対等に扱うことに感銘して、本屋になると決意した。少年は集団就職で上京して古本屋で働く。店番をしていると、毎日一定の時間にホームレスの男性が通る。ある日その人が店頭の10円均一棚から「漱石全集」の端本を買い、大事に抱えて帰って行く。

〈本を愛する者に貴賎はない。来る者をこばまぬのは、古本屋もまた然りである。/私は、この商売を選んで間違いではなかった。しかし正直を言うと、かの男性が店頭の台をのぞいた時、眉をひそめた別のいやな自分が、確かにいたのである。それきり男の姿は、見ない。〉

(平野)

2023年12月5日火曜日

橙書店にて

12.2 「KOBEまち大2023 再発見・神戸中心市街地の背骨」トークイベント第3回聴講。講師・土井祥子(神戸大学学術研究推進機構SDGs推進室特命准教授、都市形成史)「神戸の『市区改正』と鉄道改良~神戸市街縦貫高架鉄道を中心に~」。

神戸の市街は南北に狭い。明治の初め鉄道が東西を貫いた。地べたを走るからあちこちに踏切ができ、交通渋滞、事故。昭和初めに今の高架になったわけだが、その都市計画がどのように構想され、成立したのかを検証。山手に移すとか、地下化とか、そうなると神戸駅移設とか、鉄道省、神戸市、商業会議所が様々計画を練り、議論。さらに阪神電車、阪急電車の乗り入れがあり、高架化による新しい空間の管理・利用という課題も出てくる。

12.3 「朝日歌壇」より。

〈兵十はまた失ってしまったよ青いけむりはごんのたましい (奈良市)山添聡介〉

〈『はだしのゲン』全十巻を借りてゆく高校生あり久しぶりなり (神奈川県)神保和子〉

〈今東光の一人語りを一人聴く八尾図書館の静謐な部屋 (八尾市)宮川一樹〉

 日曜朝のニュース番組のスポーツコーナー「喝! あっぱれ!」の前に出発。京都大谷本廟。電車はすいていたけど、観光地も街中も人はいっぱい。しばらく足を運んでいなかった三月書房を見に行く。離れて見ると開店しているようなシャッターの絵。

 


 田尻久子 『橙書店にて』 ちくま文庫 820円+税



 熊本市の本屋・喫茶店「橙書店」店主のエッセイ集。2019年晶文社初版に書き下ろしと未収録分を加える

 2001年、何の計画性もなく資金もなく喫茶と雑貨の店を開業。08年に本屋も開店。近所の人たち、ミュージシャン、芸術家、文化人が集まる。スタッフを募集しなくても、次々手伝ってくれる人が現れる。人が人を呼び、近隣県から、東京から旅人や作家・詩人もやって来る。いつの間にか地域の文化活動の拠点という存在になった。文芸誌「アルテリ」の責任編集も勤める。

 本書は20年にわたるお客さんやスタッフ、びっくりの著名人とのお話。

 奇跡のような出会い、切ないお別れも。

(平野)                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 

 

2023年12月2日土曜日

地図で読む戦争の時代

11.29 孫姉は熱出てダウン。妹はいっしょに遊べず退屈気味。ヂヂババ心配しても何もできない。回復を待つ。

12.1 孫姉は熱下がったよう。完全復活までもう少し。

 12月。寒くなったが、暖冬予報。

 

 今尾恵介 『地図で読む戦争の時代 描かれた日本、描かれなかった日本 増補新版』 白水社 2100円+税 2011年初版。



地図も公的文書である。それが何らかの意思で書き換えられたり、あるべきものがないものとされた。非常事態の大義名分で権力はなんでもやってしまう。

 本書のテーマは二つ。

〈地図で戦争の時代を読む/戦争の時代の地図を読む〉

 蛇行する線路、きれいな円形の区画、広大な空き地、古い地図にあったものが消える……、地図から戦争時代の痕跡を読み取る。

国家は情報を統制し、嘘の情報を地図に掲載した。他国を侵略し、人びとに日本語を強制して地名も日本風に変え、日本語の地図を作った。戦争に負けて、占領時代の地図には、空襲による焼け野原、占領軍の施設があちこちに描かれる。

 地図は人間が測量して作る。情報は一枚の紙に大きな縮尺により記号で示される。後世の人間が地図を見て嘘の情報を読み取ってしまうかもしれない。また、爆弾を落とす側は高い場所から施設・建物を壊す。現実には下に多くの人がそれぞれの暮らしをして生きている。

 井上ひさしの小説で1分の1の地図を作る話がある。現実と全く同じ縮尺の地図。馬鹿げた話だが、深い意味がある。

 今も権力は歴史的事実を歪曲する。各地で戦争が起きている。

著者は中学生時代から地形図に親しむ地図オタク。「一地図マニア」の視点で戦争のさまざまな側面を書く。

「地図も『ウソをつく』」。

(平野)