2020年11月28日土曜日

影に対して

  11.26 遠藤周作『影に対して 母をめぐる物語』(新潮社)を読む。本年6月、長崎市遠藤周作文学館が資料から発見、と公表した原稿「影に対して」。19633以降の執筆らしい。遠藤は完成しながらも発表していなかった。家族・関係者への配慮だろう。




 勝呂は売れない翻訳家。幼き日、満州大連で家族と過ごした。父と母は離婚。母は東京で音楽教師になる。一家も神戸に戻り、新しい母親を迎える。母は音楽家を目指したが、演奏会を開くことはできず、一人アパートで死んだ。 

母はなぜ父と離婚したのか。父は平凡が一番幸福と言う。母は毎日ヴァイオリンを練習していた。指先はつぶれ顎は真っ赤。芸術に対する考え方が違う二人はなぜ結婚したのか。自分は母を美化しているのか。亡母を知る人びとを訪ねる。

母の手紙にはいつも、アスハルトの道を歩くな、とあった。砂浜は歩きにくいが、うしろをふりかえれば、自分の足あとが一つ一つ残っている、と。

勝呂は子どもの入院費もままならない。妻は父に金を借りよう、と言う。虚しい口論、妻を撲ろうとしたが、撲れない。「彼はうつむいて母の死に顔を思いうかべた」。

亡母の思い出を綴った作品6篇と共に単行本化。遠藤の家庭事情が基になっているものの、事実とは少し違うし、それぞれの作品にも食い違いがある。

 

11.27 高橋輝次さんから新著『古本愛好家の読書日録』(論創社)を送っていただく。お礼の電話。ここ数年、11冊のペースで自著を出版し、他の人の出版・編集も手伝う。帯に「コロナ禍にめげない古書店めぐり」とある。

午後、ギャラリー島田「石井一男展」と「須飼秀和展」。スタッフ・キリさんとしばし世間話。

元町事務局に原稿持参。諏訪山ゆかりの江戸時代俳人と昭和の作家のこと。文学史上ほぼ無名の人たち。

〈花森書林〉吉岡充個展最終日、市役所の花時計スケッチから帰ってこられた吉岡さんを紹介いただく。元町通4丁目山側にできた本屋さん〈本の栞〉に寄る。元町周辺に古本屋さんがどんどん集まってきている。

(平野)

2020年11月26日木曜日

新作らくごの舞台裏

  小佐田定雄 『新作らくごの舞台裏』 ちくま新書 920円+税

 落語は落語家が作るもの、と思っていた。小佐田は上方落語の作家。新作は260作を超える。同じくらい古典の改作や再生も手がける。よく演じられる作品が小佐田の新作や改作であることを知る。現在は歌舞伎や能の台本にも活動を広げている。

新作も、やっぱり基本は古典。先人たちが構築してきたお笑いの筋道がある。落語家の演出やアドバイス、アマチュアのアイデアなどを取り入れる。落語家がその台本は演じると新たな工夫が加えられ、次の世代に受け継がれていく。

 


11.22 本日「朝日新聞」朝刊に演芸作家・織田正吉の訃報。

小佐田の本に織田のこと。小佐田がまだサラリーマン兼業時代、ペンネーム「小田定雄」を名乗っていた。桂枝雀が、大先輩「織田正吉」と似ていてまぎらわしいし、あちらに迷惑、と意見。「佐」の字を加えたそう。

 本屋さんでいただくPR誌「本」(講談社)が12月号で休刊になる。本誌は何年も前に読者直接購読を中止して、店頭配布のみだった。連載は単行本出版時に加筆、もしくWEBに移動の由。

 11.23 午前中図書館。稲垣足穂と同級生ドミトリ(猪原太郎)のこと。


河内の友より電話あり 

身辺事情を話してくれる

ウチはたいした話題なく 

毎度毎度の冗談たたく

嫁はんとうとう逃げたんか?

孫のお守りに行きよった

ヂヂイ同士情けなく

バイバイまたねと再会約す 

(平野)

2020年11月22日日曜日

おはよう、おおさか

  11.21 仕事行くのと同じくらいの時間に家を出て大阪駅下車。おはよう、おおさか。

中之島国立国際美術館〈ロンドン・ナショナル・ギャラリー展〉。時間予約制9時の行列、私が着いた時はすでに70人位並んでいた。どんどん増えてくる。入館してみると、混んでいるとは感じず。今回の目玉は、ゴッホ、レンブラント、フェルメール。続いて、香雪美術館〈聖徳太子 時空をつなぐものがたり〉。絵巻たくさん修復。



 ほんまにひさしぶりに堂島の巨大書店の棚を巡る。さすがの量と品揃え。

 こちらも久々〈本は人生のおやつです!!〉。店主、母娘お二人と本を選んでいる。山積みの買い取り本の谷間で座り読みして待つ。ずっと前から約束していた拙稿コピーと店主好みの評論掲載PR誌を渡して、予約本、河治和香『ニッポンチ! 国芳一門明治浮世絵草紙』(小学館)を受け取る。金沢の室生犀星記念館パンフもらう。私は行けないけど、店主はきっと遠征するんだろう。



 夕方、家人孫守り終えて帰宅。賑やかな日常に戻る。

(平野)

2020年11月21日土曜日

いただきもの

  11.20 独身生活、週末だ! ダラダラ呑み食いして、夜更かしもしてやろう、と思っても、そうはもう呑めないし、呑んだらすぐ寝ている。夜中にトイレに起きる。あーヂヂ、だらしない。

 ギャラリー島田でいただいた本、2冊。




 井上由紀子著 『生涯女優 河東けい』を出版する会 編

『そんな格好のええもんと違います 生涯女優 河東けい』 クリエイツかもがわ

1800円+税

劇団「関西芸術座」は1957年創立。河東けい(1925年大阪市生まれ、本名・西川紫洲江[しずえ])は創立メンバーにして現役の俳優。1992年以来、ひとり芝居『母~小林多喜二の母~』(現在は、ひとり語り『母~多喜二の母~』)を演じ続けている。本書は河東の評伝に、新劇史を加える。書名は出版に際して、河東唯一の注文だそう。

ギャラリー島田のキリさんにいただいた。演劇に詳しくない私にはもったいない本。著者とは本屋時代に何度かお会いしている。

 

 島田誠 『声の記憶 「蝙蝠日記」2000-2020 クロニクル』 ギャラリー島田発行 風来舎制作 頒価1500

島田社長が書いている日記と同ギャラリーメールマガジン(どちらも同ギャラリーのWebサイトで読める)から風来舎が選んで編んだ。ギャラリー20年(その前の海文堂書店やサラリーマン時代のことも)の歴史と島田社長の発言・行動・思いの記録である。

自ら「異端」「偏固暴走老人」と呼ぶ。なぜか作家、お客さん、スタッフが集まってくる。あるスタッフに、どうして「ギャラリー島田か?」尋ねてみた。

〈しばらくして手紙が届きました。「美術館や他のアートシーンにある、見る、見られるアートではなくて、活動するアートだから。アートは、人・時間・空間をつなげることができる。そういう意味でのアートを扱っているのがギャラリー島田だった。――からです」〉

http://gallery-shimada.com/

 

(平野)

2020年11月19日木曜日

栗尾根マロン彦

 11.17 気になる展覧会があり、Webサイトを見ると時間予約必要。わからんなりに予約完了したけど、受け取りはコンビニの機械。

 なんやらかんやら家事済ませて、「BIG ISSUE」買って、本屋さんで2冊。

昼前からギャラリー島田のDM作業。12月は本との関係が深い画家さん3人そろい踏み、後日お知らせ。スタッフ・キリさん(本業文筆家)が編集お手伝いした演劇本をくださる、感謝。島田社長も新刊著書出来、サインいただく。どっちを先に読むか、当然キリさんからの本。

11.18 家人は孫のお守り、横浜。

午前中図書館、諏訪山ゆかりの俳人調べ。研究者たちの探索が素晴らしい。先日(11.10)諏訪山神社句碑建立時期をそばの「皇紀2600年記念」の碑から、1940年だろうと書いたが、私の誤解。建立年・建立者不明。訂正してお詫びします。

11.19 朝掃除していて、足の裏一部が冷たいと思ったら、靴下に大きな穴。履く時気づかず。洗濯機入れ出しも、干すのも、タンスにしまうのも、私なのに。ヂヂはこうしてみすぼらしくくたびれていくのだろう。

元町原稿、江戸俳人と稲垣足穂の友の短歌を取り上げるが、苦戦中。

1003〉でジュンコさん新刊本『栗尾根マロン彦のたらちねロマン飛行』(ボタン)購入。

 


小春日やヂヂの相手はミフィー・マロン (よ)

夕方、孫が電話で遊んでくれる。

(平野)

2020年11月17日火曜日

明月記

  11.13 来週有給休暇取得、代わりに勤務してくれる人が下見に訪問。私よりベテラン、お元気。

喪中はがき数件。

本は古典続き。

 村井康彦 『藤原定家「明月記」の世界』 岩波新書 880円+税

平安時代から鎌倉幕府に以降の時期。後世に名を残す歌人にして、古典を書写し伝承した藤原定家の日記「明月記」を丹念に読み込む。歌人としてよりも日常生活を深く探る。家族、縁戚、主従関係、貴族社会、自らの出世意欲など。よくぞ個人の日記が残ったものと思う。当時の政治状況や人間関係、都の地理や区画など、歴史学的な価値はもちろんありましょう。それよりも、公務だけではないプライバシーや素直な(?)感情など、彼の人間味が浮かび上がる。


 

ヨソサマのイベント

 石井一男展  須飼秀和展  ギャラリー島田

 11.21(土)~12.2(水) 11001800(最終日は1600まで)

毎年恒例の展覧会。行列必至。初日は11時から整理券配布。

http://gallery-shimada.com/


 

(平野)

2020年11月12日木曜日

詩人・菅原道真

 11.12 午前中は家事、散髪。午後図書館、郷土史家のこと。

 大岡信 『詩人・菅原道真 うつしの美学』 岩波文庫 

600円+税



 菅原道真は平安時代の政治家、学者、詩人。藤原氏により失脚、右大臣から太宰府へ左遷=追放、家族も散り散りになった。後世、その悲劇は怨霊信仰になり、全国に道真伝説が残る。学問の神様=天神様として親しまれている。

 大岡は、詩人・道真を論じる。

……彼が今から千年以上前の日本において、今日の作者や読者らがかかえているのと同室の異文化間相互交渉をめぐる問題を、すでに切実な喜びや悲哀とともに生きていたことがわかるのです。〉

 キーワードは「うつし」。「うつす」、漢字「映す」「写す」がまず思い浮かぶが、そもそもは「移す」。意味は、人や物を動かす、心・気持ちを動かす、「伝染」も。

 また、色や香りを他の物にしみこませる、という意味もある。染色で露草の汁を下絵に使うが、それは消えてしまう。実は消えるのではなく、「もう一段高次のものの中に完全に融け入ってしまうのです」。エッセンスの「移動」「浸透」。

 道真の時代、公的文書も学問の書物も漢文、詩は漢詩。和歌は大和ことば、かな31文字。時の天皇は和歌好きで、『新撰万葉集』を編集させた。道真が選歌、それを漢字で表記、そのうえ漢詩七言絶句で表現した。翻訳――「和」を「漢」に「うつし」た。

たとえば「秋風にほころびぬらしふぢばかま つづりさせてふきりぎりすなく」。秋の七草・藤袴と着物の袴をかけて、きりぎりす(コオロギ)にほころびを縫え、という歌。これが道真漢詩では恋の歌になる(漢詩は本書を)。

〈秋風は颯々と吹き、葉はひらひらとなびく。壁では、コオロギがあちこちに鳴く。暁の露をわけて鹿が鳴き、それに合わせるように花が開く。わたしは何度も何度も手をのばして、美しい一本の枝を思いをこめて折りとった。〉

藤袴はただ「花」になった。時間は「暁」、秋の花に「露」がおり、「鹿」が登場。秋の「鹿」が鳴くのは交尾時期で、古来から「恋」のイメージ。「鹿鳴草」とは「萩」。伝統的な美的感覚が表現される。

〈道真という詩人は、このような形で、大和ことばの詩を漢詩文の世界に通し、これをいったんいわば漂白還元した上で、和歌の詩情をさらに別の次元へと転じ、つまり「移し」てゆく文学的方法を実行していた人だったのでした。〉

 道真は時代の先端を生きていた。

 讃岐赴任時に見聞した庶民の窮状を歌い、政治家として改革を試みた。

大宰府では我が身と家族の不幸、さらに親友の訃報、嘆きと悲しみを歌った。晩年の2年間である。

 19876月から雑誌「季刊へるめす」(岩波書店)連載。1989年同社から単行本。2008年岩波現代文庫。

(平野)

2020年11月10日火曜日

松間堂它谷

 11.7 午前中、図書館。江戸時代兵庫福原の俳人「松間堂它谷(しょうかんどう・だこく)」について調べる。諏訪山神社に句碑がある。山上からの眺望を詠んだ。

〈紀の海の阿波へ流るゝ月夜かな〉

 与謝蕪村門下に連なる人。生年不明、研究者により没年は寛政41792)年と判明。享年も不明、7080歳らしい。本業は医者と推察されるそう。昭和戦前期、この人の句集・墓を調べ探し出した研究者たちがいた。本は、坂井華溪『摂西兵庫俳諧史』(みるめ書房、1959年)、「它谷」探索者たちの功績も紹介。

 本屋さん、遠藤周作『影に対して』(新潮社)北村薫『ヴェネツィア便り』(新潮文庫)小佐田定雄『新作らくごの舞台裏』(ちくま新書)、来年の手帳、雑誌2冊。


 

11.8 映画「スパイの妻」。神戸の洋館や近代建築物が撮影地に。ベネチア映画祭で受賞して話題の映画。私は拷問シーン、ダメ。

帰りに花森さん、先日の代金受け取り、魚の切り身2枚買える、ありがたく。均一棚から『八木重吉詩集』(白凰社198710刷)、50円。

 11.10 図書館で「松間堂它谷」続きを調べて、その足で諏訪山神社の句碑を見に行く。そばに「紀元二六〇〇年記念」の碑がある。昭和151940)年に研究者たちの探索によって句碑が建立されたのだろう。


 

遅ればせながら、「みなと元町タウンニュース」No.339公開。拙文「海という名の本屋が消えた」は〈諏訪山界隈2〉。添付の絵の出典が抜けています。板愈良の版画「諏訪山公園」「諏訪山稲荷」(『志ぶき』川西健一編輯・発行、1923年)。

https://www.kobe-motomachi.or.jp/motomachi-magazine/2020/11/03/townnews339.pd

 (平野)

2020年11月7日土曜日

アピエ

  11.3 留守中の新聞を繰る。「朝日俳壇」より。

〈鰯雲旅は新刊書のごとく (東京都)吉竹 純〉

〈長き夜の明くるや大著なほ半ば (藤沢市)朝広三猫子〉

 11.5 花森さんに不要本とCDを買い取り依頼。店主と話すのを楽しみにしているお客さん続々。預けて、お店を出たら、古本愛好タカハシさんに遭遇。まもなく論創社から新刊本出るそう。

 11.6 ヂヂバカちゃんりん、孫の七五三写真届く。「ペコちゃん」。


 

 『APIED』 VOL.36 特集 澁澤龍彦『思考の紋章学』『高丘親王航海記』他

アピエ 700円+税



 京都の個人出版文芸誌。置いている本屋さんは少ない。神戸では〈1003〉のみか。

http://apied-kyoto.com/

 澁澤龍彦(19281994年)、60年代70年代、フランス異端幻想文学翻訳・紹介――サド、悪魔、魔術、毒薬、エロティシズムなど――で読書家たちを魅了した。メジャー雑誌にも登場して、著作はどんどん文庫化された。ファンは若い人たちにも広がった。

 本書では、澁澤賞賛とともに、女性の立場から「少女愛」「人形愛」批判や私生活についても言及。著名になりすぎた弊害も。

 (平野)私は本屋で働き出してから「澁澤龍彦」に出会った。まず、画数多い、と思った。バイト君採用の面接をすると、愛読書に「澁澤」を挙げる人が何人もいた。

2020年11月3日火曜日

没後10年と50年

 10.31 早朝の新幹線。好天、富士山久々はっきりくっきり。息子が横浜市北部に転居、様子を見に行く。高台で見晴らしよく、遠くに富士の頭が見える。娘一家と待ち合わせて、家族揃ってランチ。孫の誕生祝いも。孫の第一声、「ヂヂ、歯、入れてきた?」。



 11.1 谷中霊園、墓参り。全体に整備清掃されてきれいになっている。これも五輪準備でしょう。お江戸あちこちの工事も終了している様子。

芦花公園、世田谷文学館〈井上ひさし展――希望へ橋渡しする人〉。没後10年、ポスターと図録表紙の肖像は、原稿用紙を背景に井上ひさしが紡ぎ出したことばを組み合せている。

「希望へ橋渡しする人」は小林多喜二を主人公にした音楽劇『組曲虐殺』から。

……絶望するには、いい人が多すぎる。/希望を持つには、悪いやつが多すぎる。/なにか綱のようなものを担いで、/絶望から希望へ橋渡しをする人がいないものだろうか……/いや、いないことはない。〉



 午後は二子玉川、蔦屋家電「本の日」イベント〈作家の本屋〉。ブックコンシェルジュ・キタダさん企画、5人の小説家がオススメする本をブースで販売。青木淳悟、太田靖久、鴻池留依、高山羽根子、滝口悠生。神保町の〈ブックフリマ〉は断念、残念。


 

 11.2 朝、神保町をフラフラして、本郷のNR出版会事務局。くららさんと近所のバラ園散歩、新泉社ヤスキさん合流してランチ。

 旅の友は、佐藤秀明『三島由紀夫 悲劇への欲動』(岩波新書)。三島自決から50年、彼の悲劇的行動は「抑えがたい欲動」だった。彼の心身の奥底から湧き出る「前意味論的欲動」は文学にどのように表現されたか。



夕方、神戸着、雨。

(平野)お江戸東西うろうろ、相変わらず無駄な動きが多い。電車もだいぶ覚えたけれど、進路方向、地上出口まだ間違う。