2016年3月21日月曜日

巷に雨の降る如く


 巷に雨の降る如く
 ヴェルレーヌの詩「われの心に涙ふる」は、詩集『言葉なきロオマンス』(20篇、1874年)中の「忘れた小曲」(わすられた?)の一部。
 堀口訳『ヴェルレエヌ詩抄』(第一書房、1928年)にも収録された。「詩抄」は訳し直し、体裁を変え、版を重ねた1948年、堀口は『ヴェルレエヌ詩集』(新潮社)で、詩集の原題を「無言の戀歌」と改め、新訳。その後も改訳、新字新仮名遣いに移行。

 ヴェルレーヌは「忘れた小曲」で他の人の詩を題名やエピグラフに用いている。「われの心に涙ふる」は「その三」、アルチュール・ランボーの詩が冒頭に添えられている。
 
 その三
 雨はしとしとと(まち)にふる。 アルチュール・ランボー


(ちまた)に雨の降るごとく
わが心にも涙ふる。
かくも心ににじみ入る
このかなしみは何やらん?
 
やるせなき心のために
おお、雨の歌よ!
やさしき雨の響きは
地上にも屋上にも!

消えも()りなん心の奥に
ゆえなきに雨は涙す。
何事ぞ! 裏切りもなきにあらずや?
この()そのゆえの知られず。
 
ゆえにしれぬかなしみぞ
げにこよなくも堪えがたし。
恋もなく恨みもなきに
わが心かくもかなし。
『堀口大學全集 3』(小澤書店 1982年)より
 
『言葉なきロオマンス』は、1872から73年ヴェルレーヌがランボーと旅をし、ベルギー、ロンドン滞在中の作品。ヴェルレーヌはこの詩集をランボーに捧げるつもりだった。しかし、736月ヴェルレーヌがランボーに発砲して逮捕される。詩集出版はロンドンでもパリでも断わられ、743月に自費出版で世に出た。ヴェルレーヌはまだ獄中だった。

(平野)ヴェルレーヌが引用しているランボーの詩文はどの詩からなのか(手紙の文章なのか?)、私は探し出せていません。