2016年7月28日木曜日

召集令状


   小松左京 「召集令状」 
19645月『オール讀物』に発表
『小松左京全集 完全版』第12巻(城西国際大学出版会)、『戦争小説短篇名作選』(講談社文芸文庫)所収

 小野が入院中の父親を見舞って帰ると、同じ団地に住んでいる会社の新人武井に召集令状を見せられる。戦争中幼かった彼は召集令状を知らない。小野は昔の軍隊の呼び出し状と説明するが、いたずらか宣伝物かと言うしかなかった。武井はゴミ箱に捨てたが、翌日無断欠勤。他の新入社員にも令状が届いているし、新聞記事にもなっている。受け取った若者たちが次々行方不明になっている。
 小野はまた父の病院。軍国主義者だった父は衰え、精神は病んでいる。戦場の号令や、恐怖の言葉をつぶやいている。

《……六十こえてなお、その狂った頭の中で戦場の幻を見つづけている老人……》

召集令状は、政治団体の陰謀? 秘密軍事組織? 集団誘拐? 親たちは警察に捜査を依頼し、政府にデモで抗議する。戦争を知る世代が暴徒化し、右翼団体の事務所や軍国酒場を襲う。楽器店の軍歌レコードを割り、戦争物を掲載する出版社、軍隊物を放映するテレビ局、プラモデルを売るおもちゃ屋まで襲う。

《「きさまたち……何百万人の同胞を殺した戦争を、のどもとすぎれば熱さを忘れるからといって、下劣な食い物にしてきたきさまたちが、またおそろしいものをよびおこしちまったんだ!」》

 戦争物は影をひそめ、軍歌も聞かれなくなった。連日、反戦集会、デモ。
 誰が令状を発行しているのか? 戦争勢力はどこにいるのか?
 令状を受け取った男たちは、どうあがいても、逃げ回っても、指定された入隊日に消えた。小野は同僚の中崎と、人間が消える現象について考えた。超常現象か? SFで言うパラレルワールドとの接触か?
 戦争反対のデモは消え、千人針や日の丸行列があらわれる。政府は失踪者家族に補償金を出す。
 召集された若者たちの戦死公報が届くようになり、令状を受け取る年齢層が上下に広がっていく。小野にも中崎にもきた。小野は強度の近視で虚弱体質。中崎が速達で、令状現象について説明をしてきた。
 パラレルワールドとの接触では説明できない、超能力・人間の意志が働いている、誰かわからない、年配者で戦争経験があり心の奥であの戦争が終わっていない、戦後の風潮にはげしい憎悪を抱いている……。
 小野の入隊時間まで一時間、父の病院に向かう。

(平野)