2017年7月3日月曜日

淀川長治自伝


 『淀川長治自伝 上・下』 中公文庫 
19889月再版(8月初版)
82年から3年間「キネマ旬報」に連載、85年中央公論社から単行本。

ずっと近所の神戸市立中央図書館・郷土資料コーナー(館内閲覧のみ)でお世話になっている。古本屋さん〈1003〉で見つけて購入。
 
 

 自伝執筆時、淀川は73歳から75歳。幼少時の活動写真時代から観てきた映画の思い出に自らの歩みを重ねる。個々の映画について、俳優や監督について、出会った人たちについて、育った神戸のまちの様子について、語る。その記憶力に驚くとともに、それぞれへの愛と情熱が伝わってくる。

 淀川は2歳で光と影がつくる映像のようなものを発見した。廊下にかくれんぼうのようにしゃがんでいた。

……それは、閉めきった雨戸の小さな穴からの光がせまい廊下の障子に戸外の風景をさかさまに映じ、それが戸外の表通りを歩く人や人力車や馬車の動きをそのままに色彩をも加えて、白い障子に思わざる鮮やかさで小さく動きながら浮かびあがらせているのだった。二歳の私はこんな面白いものをみんながどうしてもっと大騒ぎして見ないのかと思い、きっとこれは誰もまだ気がつかぬのであろうと、私は私ひとりのひみつの「自分のたからもの」ときめこんだのであった。》
 
《私は自伝などおこがましくて。しかしこれを書きたくなったのは、この「目」で見てきた「映画の足跡」が書きたかったからである。しかし自伝とひらきなおったからには、私が生まれ育ったわが家の家系のことも伝えねばなるまい。(後略)》

 家業のこと、ルーツのこと、家が文なしになったこと、深い家系の傷なども告白する。

(平野)