2018年10月28日日曜日

やちまたの人


 涸沢純平 『やちまたの人 編集工房ノア著者追悼記続』 
編集工房ノア 2000円+税
 
 

 涸沢は大阪の文学・詩専門出版社社主、1975年創業。ゆかりの文人たちを追悼した文章をまとめる。昨年刊行の『遅れ時計の詩人』に続いて2冊目。本書は2006年から2017年まで。この間、川崎彰彦、杉山平一、大谷晃一、伊勢田史郎、鶴見俊輔、庄野至ら25名の著者が鬼籍に入った。出版の喜びがあり、著者・家族との熱い交わりがあり、追悼記執筆という苦行がある。
 年少の友も見送った。三輪正道は181月胃がんのため死去。ノアから著書5冊出版。

〈最後の別れでは、一人ひとりが三輪正道の口唇に酒を含ませた。/棺の中、痩せてはいたが病みおとろえた感じはなく、ねむっているようにも見えた。充分若さが残っていた。(中略)/「ぶんがくがすき」「酒がすき」、すさまじきものは宮仕えと言いながら、読むこと書くことを習慣とし、五冊の著書を残していった男の顔、を改めて見た。作家の顔をしていると思った。〉

 書名は、足立巻一(191385年)『人の世やちまた』(同社、1985年)から。江戸時代の文法学者・本居春庭の評伝『やちまた』(河出書房新社、1974年。現在は中公文庫で読める)他著書多数。春庭は動詞の活用を研究、「詞の八衢(ことばのやちまた)」を著した。「やちまた」とは道がいくつにも別れる場所のこと。足立は、人生そのものがやちまた、人のつながりも分かれながらつながっている、と書いた。

 涸沢は、著者たち読者たち、すべての『やちまた』に感謝、を述べる。

(平野)