2018年11月5日月曜日

水の匂いがするようだ


 野崎歓 『水の匂いがするようだ  井伏鱒二のほうへ』 
集英社 2200円+税

フランス文学者による「井伏鱒二論」。井伏の多様で豊かな文学世界を紹介。魚、水、翻訳、架空、旅、戦争、骨董などをキーワードに、井伏文学の面白さ・愉しさを教えてくれる。

〈多様というのは、作品の扱う時代も(中世から現代まで)、空間的な距離も(ジョン万次郎や漂民宇三郎ら、世界の果てまで流れていく主人公たち)、そしてジャンルも(短編、長編、詩、エッセー、童話、翻訳、偽の翻訳、史伝、風物誌、さらにSFまで)、目覚しい広がりを見せるのである。九十五歳まで生きた作家は、たえず新たな挑戦をしていた。しかもどの時期をとっても、作品からは変わらない懐かしい声が聞こえてくる。いつも飄々としてユーモラスな、とぼけた調子である。ところが、そのおとぼけの裏には揺るがぬ意志と、粘り強い精神のはたらきが隠されていた。貧乏暮らしや軍国主義の圧迫に耐え、戦後の狂奔する社会の動きに流されることもなく、自らの作法を守り続けた井伏の仕事は、何と柔らかによくしなう抵抗の軌跡を描き出していることだろう。〉
 
目次
1 魚を尊ぶひとの芸術
2 鱒二は修業中です
3 ドクトル・イブセ
4 架空の日記の謎
5 こころ悩めば旅にいでよ
6 戦場のドクトル・イブセ
7 水のほとりは命のただ中
8 田園に帰る
あとがき

 井伏の本名は「満寿二」。筆名にあてた「鱒」は魚を尊ぶと書く。
 太宰治が桜上水で心中した後、井伏はますます釣りに興味を持つようになった。

……水中に落ちたなら人は呼吸を止めるほかない。その意味では水はまぎれもなく死の圏域である。(中略)水の中の魚の生こそうらやむべきものである。その生に触れ、その輝きをつかの間我が物とする手段が釣りなのである。しかし残された者として井伏は、死への抵抗を自分なりに試みるほかなかった。水中の生に親しみ魚を尊ぶことは、太宰の死を超えて自らを活かすことだった。〉

(平野)
ヨソサマのイベント

 横溝正史先生 生誕地碑建立14周年記念イベント
講演 日下三蔵(探偵小説研究家)
『横溝正史ミステリ短篇コレクション』(柏書房)を編集して 

日時 1110日(土) 1400より

会場 東川崎地域福祉センター(神戸市中央区東川崎町5-1-1)

問い合わせ 神戸探偵小説愛好會 野村恒彦さん 
noranekoportnet.ne.JP

 WAKKUN作品展 「月舟」

日時 112日(金)~12日〈月〉 12001900 
7日休み、最終日1800まで)

会場 GALLERY301(神戸市中央区栄町通1-1-9 東方ビル301078-393-2808