2016年10月29日土曜日

読書と日本人


 津野海太郎 『読書と日本人』 岩波新書 860円+税

 目次
 日本人の読書小史  始まりの読書 乱世日本のルネサンス 印刷革命と寺子屋 新しい時代へ
 読書の黄金時代  二十世紀読書のはじまり われらの読書法 焼け跡からの再出発 活字ばなれ 〈紙の本〉と〈電子の本〉

 津野は晶文社や『季刊・本とコンピューター』で活躍した編集者で、大学教授、図書館長も勤めた。劇団「黒テント」演出者でもある。出版・読書論、人物評伝など著書多数。

《本はひとりで黙って読む。自発的に、たいていはじぶんの部屋で――
 それがいま私たちがふつうに考える読書だとすると、こういう本の読み方は日本ではいつはじまったのだろう。》

 読書という習慣がいつはじまり、どう普及し、これからどうなるのか?
 津野は、ひとり・黙読・自発的・自室、という読書のはじまりについて、「あのあたりかな」と見当をつけた記録をふたつあげる。菅原道真の随筆「書斎記」(9世紀末)、その末裔で菅原孝標の女(むすめ)『更級日記』(11世紀半ば)。
 学問の神様・道真は学者の家柄。「秀才」の資格を得て、父から小さな「部屋」を与えられた。ここで学問の本を読み、写本をし、「抄書」(大事なところを書き出す)した。しかし、「部屋」といっても大きな部屋を簾や衝立などで仕切った仮設空間で、厳密には「局」と言うらしい。狭い、学友たち(親しい者もそうでない者も)寄ってくる、彼らは書物を乱暴に扱う、休息していても面会と言って入って来る、静かに勉強できない、と不平をもらしている。
 孝標女は親戚から『源氏物語』を揃いでもらって読みふける。津野は竹西寛子の現代語訳でその部分を引用する。

《これまでとびとびにほんの少しずつ読むだけで、あまり納得がゆかず、いらいらしていた源氏の物語なのですが、それを第一の巻から、誰にも邪魔されず、几帳の中にこもりっきりで、一冊一冊取り出して読んでゆく心地、もう后の位だって問題じゃないと思うくらいでした。》

 道真の「個室での自由な読書」は実現しなかったが、150年後の一族の娘にはできた。
 津野は、平安時代中期、孝標女の頃を「新しい読書の時代」のはじまりと指摘する。読み書き能力の向上、読書習慣の普及、印刷・出版の進化とビジネスとしての出版、「読書の黄金時代」……、日本の読書の歴史を考える。活字ばなれ、ベストセラーしか読まれない、電子本登場など読書の環境は変化している。本を読む人が少なくなったのか? 
 いや、「それでも人は本を読む」。

(平野)
 ひとり静かに読書することは学問の神様さえ叶わなかった途轍もない贅沢なのだよ。

『ほんまに』第18号販売店・団体追加。
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