2019年10月19日土曜日

月の満ち欠け


 佐藤正午 『月の満ち欠け』 岩波文庫的 850円+税 
特別寄稿 伊坂幸太郎

 2017年直木賞(第157回)受賞作を文庫サイズにするのだけれど、「岩波文庫」ではなく、単行本扱い。体裁は「岩波文庫」的。巻末に「岩波文庫」の目録(一部)のページはあるが、岩波茂雄の「読者子に寄す」はない。著者も岩波も面白がっている。今後「岩波文庫的」叢書ができるのだろうか。佐藤の『花のようなひと』は「岩波現代文庫」に入っている。


 


 佐藤は、1955年長崎県佐世保市生まれ。83年『永遠の12』ですばる文学賞受賞。

 本作品は、幻想恋愛小説、と言えばいいのか。輪廻転生。事故死した女性「瑠璃」の記憶を持つ少女が現れては事故死し、また別の少女が出現する。かつての恋人に会おうとする。名前はみな「瑠璃」「るり」。母親が妊娠中夢のお告げで「瑠璃」と名付けるつもりだったが、家族に反対されて別名になった場合もある。
 それぞれの「瑠璃」は名付けの元になった格言、「瑠璃も玻璃も照らせば光る」を口にする。自分の恋人、妻、子ども、と打ち明けられても、受け入れられる人、そうでない人、冷静になろうとする人、さまざま。30年余りの時を越えて関係者の人生が交わる。未来にあるのは、幸か不幸か。
 最初の「瑠璃」が生存中、恋人に語る。

「神様がね、この世に誕生した最初の男女に、二種類の死に方を選ばせたの。ひとつは樹木のように、死んで種子を残す、自分は死んでも、子孫を残す道。もうひとつは、月のように、死んでも何回も生まれ変わる道。そういう伝説がある。死の起源をめぐる有名な伝説。知らない?」

(平野)
 10.14 梅田蔦屋書店のイベント「読書の学校 ブックトークフェスティバル2019」。書店主・書店員9名が本の魅力を語る。海文堂の同僚アカヘルさんとキタダさんが企画に参加、久々に会えた。「あなたのための本」「はじめての一冊」「完璧な本」の3部制、全部聴講。難問にゲストの皆さんは真摯に応えてくださった。トータル6時間(入れ替え時間含むと8時間)。空き時間はなるべく梅田近辺を歩いたが、座りっぱなしはきつい。
 10.19 図書館で「みなと元町タウンニュース」原稿の参考図書を読む。島崎藤村が女性問題から逃避するため2度神戸に来ている。明治26年、大正2年。懲りない人である。後年それぞれを小説にしている。
 地震、台風、集中豪雨。日本列島に住む私たちは繰り返し自然災害に襲われる宿命。それでもこの場所で生き延びて行かねばならない。