2020年10月20日火曜日

酒呑童子の誕生

 10.17 家人実家親戚と墓参予定が、雨強く墓園前で車中から手を合わせて、そそくさランチ。揃いも揃った不孝者。

 古書店主から通信、文芸書初版本が大量に入荷した由。

詩人さんからは古書専門紙に寄稿した神戸詩史のコピーが届く。文学史には残っていない詩人たちの足跡を掘り起こす作業を続けておられる。

 10.18 「朝日歌壇」より。

〈読書には理想的なる空間とつくづく思う秋の独房 (ひたちなか市)十亀弘史〉

 同じく「朝日俳壇」より。

〈本棚に青春の日々敬老日 (埼玉県皆野町)宮城和歌夫〉

 読書は、

 髙橋昌明 『定本 酒呑童子の誕生 もうひとつの日本文化』 岩波現代文庫 

1400円+税



 大江山の酒呑童子説話は源頼光とその四天王が鬼を退治する話。絵巻や謡曲、御伽草紙などで伝えられる。

 聞きかじりのヂヂイは、盗賊とか朝廷に反逆する輩をねじ伏せた話を脚色したものと考える。渡来人(西洋人)という説もあるそう。でもね、本書によって、説話の背景は複雑でわずかな史実だけで成り立つものではない、と知る。

そもそも「鬼」とは何か、「酒呑童子」は酒呑みの暴れん坊なのか、なぜ大将は源頼光なのか、なぜ四天王のうち特に渡辺綱が活躍するのか。

 南北朝の時代に「酒呑童子」の原型ができ、多くの作品が作られたが、現在残る作品は少ない。『大江山絵詞』(逸翁美術館蔵)と『酒呑童子絵巻』(サントリー美術館蔵)が双璧、ということだ。両書の成立時期は1世紀から半世紀の隔たりがあるそうで、内容でも相違点がある。両書を比較しながら「酒呑童子」成立を分析する。

 都の安寧を祈る儀式、陰陽、疫病流行、中国の伝説に聖徳太子伝説、それに反乱者排除。舞台である「大江山」も移動する。

〈大江山の酒呑童子の原像は、都に猛威をふるう疫神、とくに前近代日本の疫病中、最大の脅威であった疱瘡を流行らせる鬼神だった。大江山(老ノ坂、山陰道が山城国に入らんとする地点)は、古代以来疫病の都への侵入をさえぎる四堺祭(都城の道切りの祭の一種)の祭場の一つであり、元来、疫病の跳梁しやすい場所である。〉

 著者は神戸大学名誉教授、日本中世史の先生。

(平野)