2023年3月30日木曜日

江戸の思い出

3.28 先週姉孫は家を離れて二泊三日。元気で明るい(にぎやか)彼女だけれど、不安な日日だったろう。彼女なりに覚悟して決断した。ヂヂババは彼女に「がんばってとか、かしこいとか、いわないで」と釘をさされた。紋切り型の励まし、べんちゃらは通じない。無事帰宅、パパママにたくさん甘えてちょうだい。妹も姉がいなくておとなしくしていた様子。ヂヂババ早速宅配便、雑貨や食べ物送る。ちゃんりんちゃんりん。

3.29 訃報、思潮社・小田久郎、俳優・奈良岡朋子、深夜叢書社・齋藤愼爾。ご冥福を。

 名古屋の老舗・正文館書店本店が6月で閉店。

3.30 買い物ついでに南京町を久々に歩く。観光客や家族連れでいっぱい。料理屋は行列、立ち食いの人たちがたむろして、以前の姿に戻っている。私の目的は「赤松酒店」に明日本会お願い。飲み助たちよ、もうすぐ案内するからね。うみねこ堂に寄ったら、もう福岡さんから連絡あったで~、って情報が早い。フライング。

 

 岡本綺堂 『綺堂随筆 江戸の思い出』 河出文庫 900円+税



 同文庫2002年初版の新装版。

 明治5年生まれの綺堂にとって、江戸の風景、情緒、歌舞伎の世界は「遠い昔の夢の夢」「引かれ寄ろうとするにはあまりに縁が遠い」ものだった。「何かの架け橋がなければ渡ってゆかれない」けれども、「架け橋」は朽ちながらもかろうじて残っていた。文明開化、西欧の文化が満ち溢れていても、大人たちは江戸の生まれであり、彼らに教えてもらえた。

……遠い江戸歌舞伎の夢を追うには聊(いささ)か便りのよい架け橋を渡って来たとも云い得られる。しかしその遠いむかしの夢の夢の世界は、単に自分のあこがれを満足させるにとどまって、他人にむかっては語るにも語られない夢幻の境地である。わたしはそれを語るべき詞(ことば)をしらない。〉

 綺堂は「たしかに踏み渡って来た世界の姿」=「架け橋」なら語ることができる。劇場、芝居茶屋、河岸、屋台店、遊郭……、それらも関東大震災によって消滅してしまった。

……その当時の少年は依然として昔の夢をくり返して、ひとり楽み、ひとり悲しんでいる。かれはおそらくその一生を終るまで、その夢から醒める時は無いのであろう。〉

 江戸の面影、震災以前の東京風景、震災記録、怪談・奇譚の原典を語る随筆集。芝居脚本の話はあるけど、半七の話はない。

(平野)