2014年5月17日土曜日

震災学 vol.4


■ 震災学 vol.4』 東北学院大学発行 荒蝦夷発売 1800円+税

目次
「生きている死者」のこと  佐々木俊三
第一章     震災の悲しみを乗り越える
討論 記憶に付き添う  野田正彰×上田今日子×阿部重樹
第二章     死者と生者
死者と共に生きる  山形孝夫
グリーフケアとは何か  髙木慶子
心のケアの現場に分け入る  山川徹
エッセイ  和合亮一
第三章     防潮堤を考える
東北の未来を考える 防潮堤を再考するシンポジウム  阿部正人 下村恵寿 千葉昭彦他
第四章     地域と震災
「神話」の果てに問われること 東北から見る原発立地自治体のいま  昆野勝栄
「生きた証」を伝える 被災地の「生と死」と新聞報道  菅原智広
被災鉄道と地域の文化  芦原伸
記録を集め、編み、残す  柴田良孝×中川清和

和合亮一「真っ黒を真っ白に」

 福島の子どもたちと合宿形式の詩作講座を担当している。震災後初めての講座では、みんなの姿を見て、涙を流した。震災の後に何を感じてきたのか、子どもたちに書いてもらった。「悲しい」「がんばろう」「信じよう」などの震災当時にあふれた言葉。

……直感的にこれではいけないと思った。詩作はもっと自由であるべきだ。これはそのまま、長年、詩作を教えてきた私にとっての課題となった。

 和合は震災直後から生の声を記録しつづけてきた。活動の支えになっている。子どもたちにもそれを理屈ではなく肌で感じてほしい。今年1月の講座で、6人の被災体験を聞くことにした。子どもたちに「耳をすます」ことの大切さ、出会った言葉やイメージをメモすることの重要さ、を話した。
 体験談は、避難者のネットワーク作り、風評でダメージをうけた街の活性化、仮設で一人暮らしのお年寄りのお世話など。共通しているのは、地域の子どもたちと一緒に浪江や飯舘に戻りたいという夢を大切にしていること。
 Hさんは時々浪江の家に片付けをしに戻っている。ネズミが家を荒らす。久しぶりに戻った時のこと。玄関を開け放して作業していたら、急に後ろから背中を押された。

 振り返ってみても何もない。また前を向くとぐっと触って来る。ああ、と分かった。それは玄関から入り込んできたあたたかい風だった。それに気づいたとき、Hさんは涙がとまらなかったそうである。
 こんなふうにとっさに思ったそうだ。「久しぶりに、住んでいた人がやって来て、この家が喜んでくれているんだなあ」。……

 和合は子どもたちに今後も続く原子炉の威力、放射能の恐ろしさを話す。「このことはみんなの問題なんだ」。

 そこでみんなは何を感じて、考えて、伝えていくべきなのか。言葉に出来ない思いを今、六人の方々から感じたよね。そこを見詰めることだ。そしてそれを言葉にすることが一番大事なんだ。そのときに自分だけの言葉の芯が必ず見つかる。「復興」という言葉は大切な意味があるけれど、便利でどこか危険な言葉だと私はいつも思っている。それで片付けられないものこそを見つめることだ。言葉に出来ないそれを言葉にしていくのだから、なんだか話はおかしいかもしれない。だけど、その〈おかしさ〉と戦い続けるのが詩を書くことなんだ。

 子どもが書いた詩。和合は〈芯〉を見つける。

頑張って 頑張って 頑張った その先に
何があるのだろう

今を全力で駆けぬけて 両手を空へかざしたら
いったい何があるのだろう

ゴールテープは真っ黒でかまわない
真っ黒を真っ白に染めるのは
何かを見つけた 私達だ

(平野)