2014年7月10日木曜日

異人館周辺


 陳舜臣 『異人館周辺』 文藝春秋 19909月刊


 表題作他全9篇、神戸を舞台にしたミステリー。トアロード、元町、灘五郷、外人墓地、居留地、須磨……などあちこち登場する。戦前戦後、日本人と在留外国人の表と裏の関わり。

「異人館周辺」

 小説家の私、新神戸駅の近くで父の友人で「ふしぎなじいさん」と呼ばれる趙さんに出くわす。70歳を超えるがずっと独身、イギリス留学、職業についたことがないがお金持ち。住まいはトアロードの西。
(トアロードの地名起源を説明。ここでは鳥居説 諸説については「トアロード商店街HP」を。http://www.torroad.com/history/01_name.html )
 トア・ホテル、できたのは日露戦争の後、お稲荷さんがあった場所(鳥居説)、1950年焼失。池があった。付近の外国人たちは「ハンギングマンズ・ポンド」と呼んだ。池のそばで自殺者がいたらしい。
 趙さんは私に話したいことがあるようで、家に招き入れる。私も「この機会を逃してはならない」と、小説家の勘。「ふしぎなじいさん」の金の出所、人生の秘密。
 祖父の代に香港から来た。祖父は船の塗装職人。祖母は裕福なイギリス人家庭で女中。なのに息子(趙さんの父)はイギリス留学、帰国しても働かない。イギリス人の援助があるのか。周囲のやっかみから、祖父に犯罪逃亡者の噂がたつ。祖父自殺、息子も若くして病死。犯罪のたたりと言われる。
 趙さんが真相を語る。祖父の死、祖母が働いたイギリス人家庭のこと、先の池の謎、父の留学時代の恋人のこと。

「あんたはミステリーを書いておられるから、その方面のことを、調べるルートがおありだろう。調べていただきたいのです。……こんなカビの生えたことは、どうせもう正確にはわからんでしょう。……小説でいいんですよ、小説で。あんたなら、どんな小説をつくるか、お手並みを拝見したい。……データはここにあります」

 趙さんは1冊のファイルを広げた。イギリス人の会社が扱っていた薬品リスト、父の死亡診断書、それに父についての調査書。
 表紙の絵は、小松益喜「大きなガス灯のある異人館」(1939年)。

(平野)
【朝日新聞7.9神戸版】
「元町に書店復活を」 神戸市長、商店街と協議への記事。
 市長定例会見。
 元町商店街に、市も参画して商店街の人々と書店を復活させる検討を始めていることを明らかにした。
「市営書店は適当ではない。あくまで民間の方中心で」と語った。

 しっかりした書店が出店してくれるのが一番いいと思います。