2019年9月9日月曜日

アウシュヴィッツの図書係


 アントニオ・G・イトゥルベ 小原京子〈訳〉
『アウシュヴィッツの図書係』 集英社 2200円+税

 

 20167月初版。私のは20184月第11刷。
 著者はスペインのジャーナリスト。実話に基づいた小説。
 アウシュヴィッツ強制収容所に子どもたちのための秘密の「学校」があり、秘密の「図書館」があった。たった8冊の本。図書係は14歳の少女ディタ。ナチの兵隊に見つからないよう、少女は命がけで本を守る。
 いつ殺されるか、病気になるか、栄養失調で倒れるか、食料も薬もない絶望の最中。本など必要なのか? 何の役に立つのか? 
 ディタは学校のリーダーに図書係を頼まれた。危険なことだと言われたが、「任せてください」ときっぱり言った。
 ページが抜けた地図帳、『幾何学の基礎』、H・G・ウェルズ『世界史概観』、『ロシア語文法』、フランス語の小説『モンテクリスト伯』、フロイト『精神分析入門』、ロシア語の小説、チェコ語の小説『兵士シュヴェイクの冒険』。どれもボロボロ。それから先生たちが覚えている物語を話す「生きた本」があった。
 リーダーが収容者移送選別(ガス室行きか強制労働か)の混乱のなか自殺(実は同胞による毒殺)、皆が動揺する。ディタは先生に、おびえて途方にくれる子どもたちのために本を読んであげるよう、頼まれる。どんな本を読めばいいのか。真面目な本か、数学か、世界史か……

〈八冊の中で一番くたびれている、バラバラの紙の束といってもいい本。この中では一番ふさわしくなさそうな本だ。全然教育的じゃないし、罰当たりかも。下品だ、不謹慎だとその本を認めない先生たちもいる。しかし、そんなふうに思うのは、花は花瓶の中でしか育たないとおもっている、文学の「ぶ」の字もわかっていない人たちだ。図書館は今や薬箱なのだ。もう二度と笑えないと思ったときにディタに笑いを取り戻させてくれたシロップを、ちょっぴり子どもたちの口に入れてやろう。〉

 以前、先生に許しがたい本、不謹慎、教育と品位を損なう本、と叱られた本だ。『兵士シュヴェイクの冒険』(第一次世界大戦中のチェコスロバキアのダメダメ兵士が主人公。戦争を風刺)。最初だれも聞いていなかったが、ディタは読み進めた。ディタを見つめる子、離れた場所から近づいてくる子、おしゃべりしている先生に注意する先生、子どもたちが笑う。
 更なる生死の選別で学校も図書館も閉鎖。死を免れた者は別の収容所に移される。ディタの運命はどう翻弄されていくのか。読んでいただくしかない。

(平野)
 西宮甲子園のリトル書房で本書が私を呼んだ。出版時から読むべきとは思っていたが、本屋さんの棚に手が届かなかった(高いところにあった、ということではなくて)。リトルで手が届いた。
 本が大きな悲しみにある人の癒しになる、と信じたい。だが、自分が明日をも知れぬとわかったとき、ディタのように行動できない、と思う。

 前回一日分消えていた。
 9.1 三宮高架下を歩いていたら古本店主と遭遇。いきなり「新しい店はじめました」とおっしゃる。2店舗共同出店「三宮駅前古書店」誕生。空港行きバス乗り場のすぐ近く。



 9.7 ギャラリー島田「大竹昭子写真展 須賀敦子のいた場所」で本販売係。くちあけ、売れてほしいと思っている本を買ってくださる。幸先よいスタート。展示写真「コルシア書店」に感動されている女性、海文堂のお客さんだった。大竹・武谷なおみ(イタリア文学者)対談聴講者は50人を超え満員。須賀ファンは教養深い上品な女性ばかり(悪意・皮肉なし)、男性は数えたら7名のみ(同じく悪意なし)。武谷は須賀のイタリア文学研究者時代を知る人、大竹は作家・須賀と交際。須賀の研究業績・作品・神学など硬い話から私生活のエピソードまで、しみじみと、熱く語ってくださった。おふたりとも須賀の人間性と作品の普遍性を信じている。
 9.8 本日も本係。暑い中、お客さんがハンター坂を登って来られる。今読んでいるナチ収容所の話、少女が図書係になり監視に見つからないよう苦労する話に比べ、なんと気楽な本屋さんごっこであることか。海文堂時代のごひいきさんたちがお見えで、うれしい。画家さんからは週末からの個展案内、元町の美術書専門店店長から名刺いただく。愛書家さんも。別の男性ファンは森まゆみの愛読者で、彼女が須賀追悼記で「どんなことでもする」と書いているので須賀作品を読むようになった、と。ちょうどギャラリーにその本『文藝別冊 須賀敦子 霧のむこうに』(河出書房新社)があった。曰く、須賀をゆっくり追悼したいが、彼女からもらったたくさんの宝物へのお礼と、彼女の仕事がしずかに伝わっていくためなら、「私はどんなことだってしよう」。私はこれまで須賀の熱心な読者ではなかったし、読んでもピンときていない。昨日の対談とこの写真展を頼りにまた読んでみようと思った次第。帰り道、「三宮駅前古書店」。
 
ヨソサマのイベント
 林哲夫展 写実と幻想



ギャラリーロイユ https://www.g-loeil.com/
9.14(土)~105(土) 13001900 水・木休み 最終日は18時まで