2019年1月3日木曜日

ことばの生まれる景色


 辻山良雄 文  nakaban 絵 
『ことばの生まれる景色』 ナナロク社 2300円+税

 本書は、東京荻窪の本屋「Title」店主が選んだ本のイメージを画家が描いた展覧会をもとにする。2017年から18年にかけて同店ギャラリーで3回開催された。書籍化にあたり、新たに店主がエッセイを加える。画家は同店ロゴマーク制作者。

 店主は、この画家の絵を「宝物のようにして」飾りたかったから、と言う。画家は、なかなか描けなかった、と告白する。「言葉からこぼれてきた映像を描くことは楽しいけれど、ちょっと安易すぎないか」と考えた。しかし、展覧会題名の「景色」を、「本の書き手の意志を超えたところで書かれた『眺め』のこと」と理解した。

〈本を読むということは、その景色に近づく過程であり、それこそが忘れずにいるべき大切なことなのかもしれない。その景色は、孤独の野に置かれた机で言葉を書いたその人すらも知らない。誰にもたどり着けない。ただ、心配しなくてもその(、、)景色(、、、)()ほんとう(、、、、)()あるということだけは僕たちにもわかるのだ。〉

〈本は遠いそのどこかからまるで鳥のように羽ばたいて、僕たちの窓辺にやって来る。そしてその故郷の言葉を(しら)せてくれる。ページをひらいたフォルムはほんとうに似ている僕はただ、本になったたちの肖像描くことに夢中になった。

 表紙カバーの絵は、星野道夫『旅をする木』のイメージ。展示での店主紹介文は、星野が古本屋でアラスカの写真集を見つけた一節。画家の絵を見て新たに書いたエッセイ、

〈星野道夫のことを考えたとき、決まって思い浮かぶ二つの姿がある。一つは極寒の北極圏の夜、一人きりのテントのなかで灯りを頼りに一冊の本を読んでいる、探検家となったのちの姿。そしてもう一つは神田の古本屋街で、偶然手にしたアラスカの写真集を何度もながめながら、まだ見ぬ遠い大地を思い浮かべる若かりし日の姿だ。その二つの姿を並べたとき、自らの生を全速力で駆け抜けた、この写真家であり探検家の一貫した人生があざやかに浮かんでくる。(後略)〉

(平野)「Title」(ウエブショップ)で購入、特典冊子いただく。