2014年4月13日日曜日

ミシンと蝙蝠傘


 稲垣足穂 『ミシンと蝙蝠傘』 中央公論社 197212月刊

装幀・挿画 山本美智代


 
目次  ミシンと蝙蝠傘  天守閣とミナレット  墜落  稲生家=化物コンクール
 

 表題作、明石での小学生時代、性の目覚め。
 近所の仲よしの年長者・ブンちゃんが私を手招きする。

「オレ、こんど倶楽部を作ったんや。みんなはいっているからキミも加入しないか」そう云いながら、私の学校仲間の二、三人の名が挙げられた。その会へはいると、顔がきれいになる。人から好かれるようになると、付け加えられた。何を()る会かと訊ねると、「それは」と受け継ぎながら、「あれ(´´)を知っているか」「あれって何?」「知っているんだろう」「知らない」「本当に知らんのやな。嘘ついているのと違うか?」「いや、本当に知らん」「そうか。そんなら云うが、一番初めがオや。もう判ったろう」……

 男女のコトではなく男同士のコトだった。

「手術台におけるミシンと蝙蝠傘との不意の出会いのように美しい」
 私は、この有名なコトバを、只それだけの奇抜な表現だと思っていた。あるいは又、「ミシンは女性を意味し、蝙蝠傘はペニスのことだ」という解説を以て、「なるほど、そういうことにもなるのだろう」と漫然と受取っていた。ところがそうでなかった。これはイジドール=デュカス『マルドロールの歌』第九歌、美少年メルヴィンの美を讃える文句の、一等お終いにあるということが、初めて判った。……

(平野)