■ 『新文芸読本 稲垣足穂』 河出書房新社 1993年1月刊
目次
1 足穂小伝
郷愁の原点 高橋康雄
2 宇宙の機械学と模型世界と
足穂アラベスク 澁澤龍彦 幻想幾何学と模型存在学 松岡正剛
巖谷國士、中村宏、荒俣宏
3 アンチ・ユマニズムの源流
稲垣足穂◆西脇順三郎に贈る 北園克衛 愛読する人間 宇野浩二
佐藤春夫、武田泰淳
4 孤絶のA感覚
変な連想◆熊楠と足穂 飯沢匡 宗谷真爾、三島由紀夫・澁澤龍彦対談
5 タルホ曼荼羅
『僕の“ユリーカ”』 飯島耕一月光発狂者復活 『稲垣足穂大全Ⅰ』 種村季弘
塚本邦雄、吉田健一、河村錠一郎、加藤郁乎、金子光晴、松山俊太郎
6 ノスタルジーの原イメージ
星たちの宴 中井英夫病床の思い出 萩原幸子
草下英明、竹中郁、小谷剛、渡辺一考、鈴木翁二
カバーイラスト・装幀 山藤章二 本文イラスト 松本哉
三島・澁澤対談「タルホの世界」より
三島は、足穂の文学者としての生き方、偉大さを賞賛する。しかし、「お目にかかりたくないんです」。
(三島)……稲垣さんを、いまだに、白い、洗濯屋から返ってきたてのカラーをした、小学校の上級生だと思いたいんですよね、どうしても。そういう少年がどこかにいて、とんでもないものを書いているというふうに思いたいんです。……もう一つは、非常に個人的な理由ですけれども、僕はこれからの人生でなにか愚行を演ずるかもしれない。そして日本じゅうの人がばかにして、もの笑いの種にするかもしれない。(略)日本じゅうが笑った場合に、たった一人わかってくれる人が稲垣さんだという確信が、僕にはあるんだ。なぜかというと、稲垣さんは男性の秘密を知っているただ一人の作家だと思うから。……(略)
(澁澤)三島さんのほんとうの愚行に到達するまでの小さな愚行がいくつかある(笑)。その点については、稲垣さんかなり辛辣なことを、現におっしゃっていますけれどもね。ほんとうの愚行が出れば評価は逆転する。(三島)稲垣さんという人はテレ性ですからね。僕がほめればほめるほど僕の悪口をいうんです。
……
対談は1970年5月、中央公論社『日本の文学第34巻』のために行われた。三島自死はこの半年あまり後。
(平野)