2024年3月24日日曜日

関東大震災と流言

3.17 孫姉のランドセル写真。妹が背負って離さない。姉と同じにしたい。

 先日友人から兵庫津旧家の当主「石阪芳松」追悼録『石』を拝借した。友人の曽祖父にあたる。昭和3年出版、非売品。家族、縁ある人たちが思い出を寄せる。「石」は家業(澱粉製造販売)の暖簾。

三男・竹中育三郎(竹中家に養子入り、詩人・竹中郁)の詩「かなしき歌」3編(「臨終」「納棺」「骨あげ」)と随筆「俤小記」掲載。

臨終

醫師(くすし)むかひに兄とわれとは歩むなり

凍てたる道を黙しながらに

臨終(いまは)なりと覗きてあればかそけくも

唇(くち)あたりの動きたるかな




 

3.19 みずのわ社主、農作業の合間に編集作業、図版掲載許諾交渉など着々進行。岡山、神戸、大阪出張。ありがたいこと。

3.20 図書館でラフカディオ・ハーン調べ。元町原稿のつもりだったが、タウンニュースリニューアルに伴い、次号4月号をもってヂヂお役御免。10年と5ヵ月続けた無遅刻無欠勤、継続は力なり、自画自賛。誰もほめてくれない。今後は月一回当ブログで発表することにする。締め切りないから、きっとダラダラになる。

 本屋さんウロウロするが、目当ての本見つからず。売り切れらしい、注文。

3.22 仕事そこそこにして、明日本会の飲み会。年度末多忙の中、暇人(?)11名ほど集まる。久々「ののさま」参加で少ないけれど盛り上がる。英文学先生はカゼで欠席なのに論文掲載誌をお店に届けてくださっていて、感謝感謝。ゴロウ画伯、個展図録(一昨年秋のダゾ!!)完成して拝受。忘れていた訳ではないけれど、急かしてできる人ではないし、まあしゃあない。Seven days a week。石阪吾郎、2021年の作品集。描き、描くことの思いを綴る。ほぼ毎日、SNSに絵を投稿している。それはほめてあげよう。https://pgrpen.tumblr.com/

 




■ 『関東大震災と流言 水島爾保布 発禁版体験記を読む』 

前田恭二編著 岩波ブックレット 760円+税



 2023年は関東大震災100年だった。東京の街中で何が起きたのか、ジャーナリスト・画家、水島爾保布(におう、18841958年)が観察、記録した。翌年元日から110日まで「読売新聞」に連載した記事に加筆して、4月『新東京繁昌記 附 大阪繁昌記』(日本評論社)を出版。ところが、検閲により発禁。6月堂々と「初版発売禁止改訂版」と銘打って『新東京繁昌記 附大阪繁昌記 諸国繁昌記』を出す。「新東京」とあるのは、幕末の儒者・寺門静軒(てらかど・せいけん)が書いた江戸の世態・風俗戯作『江戸繁昌記』が幕府により出版差し止め、武家出仕禁止となったことをふまえる。

 水島の発禁図書が国立国会図書館に現存する。検閲の赤い線が引かれているのは書名には出ていない「愚漫大人見聞録」の章。赤線最初は、避難する女性の浴衣に経血が滲んでいる部分。これは「風俗壊乱」とみなされた。それから酒の勢いで革命をぶち上げる男、朝鮮人による放火・暴動の流言と彼らに対する暴力を記しているところなどは「安寧秩序紊乱」。

殺気立つ有象無象に水島らは冷静に対処する。町内の長老「ボー鱈先生」(大槻文彦らしい、安政大地震を知る人物)は流言を「ヨタ」と一蹴、髯をしごく。弟(中学生)は「日本人はふだんから朝鮮人をいぢめ過ぎ」と、暴動は「あり得べき理由」と述べる。運送屋の親方、「地震の八つ当りを朝鮮人にぶつけてやがる」「万一食ひ物の手が廻らなくなつて、暴動でも起るといけねぇつてところから、先手を打つたんぢやないか知ら」。車屋のカツさん、「朝鮮人が今に何かしやしめぇか、しやしめぇかつて、さういふ事を年中腹に思つてビクビクしてた者があるとするね、それがこの際ピーンと来たんぢゃあるめぇかと思ふのさ」。水島は殺されそうになった中国人夫婦を助けて、巻き込まれている。友人の画家は上野公園で襲撃された。

……朝鮮人に対する喪心的妄動は尽(ことごと)く流言蜚語の使嗾に出たに相違ないが、その流言なり蜚語なりの拠るところは常に『其筋』或は『憲兵隊』或は『軍隊』といつた具合に、必ず一つの官憲をもつてその出発点乃至核心にしてゐるのを見ても、吾人の同胞はいかに永い封建制度によつて思想的といふより寧(むし)ろ本能的に腐蝕されてゐるかつて事が判る。〉

 今も歴史の真実を捻じ曲げて恥じない輩が大勢いる。嘆かわしいこと。

 水島は谷崎潤一郎『人魚の嘆き・魔術師』(春陽堂、1919年)の挿絵で知られる。ビアズリーを思わせる絵。本書編著者・前田による新刊『文画双絶 畸人水島爾保布の生涯』(白水社、14000円+税)も出ている。高価過ぎてヂヂ手が出ない。

(平野)