3.5 本日の「朝日川柳」より。
〈裏金も小金もないが納税者 兵庫県 西田祥一〉
3.6 「みなと元町タウンニュース」379号着。Web版も更新。
https://www.kobe-motomachi.or.jp/motomachi-magazine/townnews/
拙稿は、1929年に西村貫一が同人誌「薔薇派」に寄稿した書物随筆紹介。次回「西村旅館」最終回。
■ 衣巻省三 『黄昏學校』 版画荘文庫
昭和12年(1937) 定価50銭
神戸市立中央図書館所蔵。表題作と「へんな界隈」収録。
版画荘文庫については小田光雄ブログ「古本夜話459(2015.3.9)」をご覧ください。
https://odamitsuo.hatenablog.com/entry/20150309/1425826855
「黄昏學校」。文中では「ツワイライト・スクール」のルビ。
主人公・岸裕子は新月女学院の音楽講師、英会話も週1時間担当。教会を手伝う母とふたり暮らし。亡父は学院の元院長。父母とも神学研究者、かつて一家はカナダで生活した。
学院の場所は神戸東部の丘陵地帯。現在の灘区青谷あたり。
放課後黄昏迫るまで、裕子は音楽室でピアノを練習する。空はまだ明るく、窓から彼方に港の外国船が見える。いつもどおり弾いていると何かの気配を感じる。「脚もとから燈火が消え去ったような味気ない不安が心に甦ってくる」。生徒たちがつくる雑誌「新月」掲載の作品「黄昏學校」を憶い出す。放課後の教室でその作者は友と希望を語り合い、校庭の片隅で戯れる。
《……三階の音楽室では、赤い室内靴を穿いた加奈陀帰りのミス・Kが、ピアノの練習をするのが聴かれるのでした。ソプラノの美しい肉声が私の疲れた皮肌や心を慰め、私たちは外人教師の住宅や、篠懸木(プラターヌ)や、チューリップのある芝生に憩うて聴くのでした。(略、Kの歌とピアノがやむと作者は家路につく)市街の背後にある六甲・摩耶の山上ホテルの窓々に灯がともり、それが港の船舶の燈火と星のごとく呼応するいつもの哀しい夕べでした。私たちの感情はミス・Kの声や姿に耽溺しだしたことを知るのでした。これが私たちをして黄昏を愛するようにした所以かも知れないのです。そのうち誰が言うともなく、私たちは私たちの學校を黄昏學校(ツワイライト・スクール)と呼びだしたのでした。(後略)》
裕子はずっと見られていることに怒りを感じる。
古い表現だけれど、「女の園」での出来事。女生徒・里子は裕子に憧れている。裕子は里子といっしょにいる瑞芽子(みずめこ)の方に好意を持つ。また別の女生徒と男性教師の恋愛事件が起きる。裕子は母に牧師補との結婚を勧められている。
裕子は英会話の授業で里子に意地悪をする。結果、里子はショックで寝込んでしまい、病む。
「新月」に里子と思われる匿名の詩が載る。
《――私はいつも心の森に隠れる。(略)何処からともなく魔女の歌がする。(後略)》
裕子は心乱れ、ピアノの才能がそこを知れたもののような気がして、特権的立場にいる自分を忌々しく思う。「魔女」とは自分のことだ、と。学院をやめる決意。一学期の終わり、里子の死亡通知が届く。
青谷の女学校というと、松蔭か、海星か。「黄昏學校」はプロテスタントのよう。松蔭はイギリス国教会、海星はカトリック。プロテスタントだと神戸女学院だが、場所が離れる。特定の学校をモデルにしたのではなさそう。
「へんな界隈」には足穂らしき人物「稲若」が登場する。ダンスホールに居ついて原稿書き。財産はトランクひとつ。
〈……その中には、バネ付きのシルクハットや、今迄発表された原稿や、子供を喜こばせる銀のピストルや、ボール紙製の星や月や三日月や、ペン、インクは言うに及ばず、魔術の書物や、天文学の本などが、ごっちゃに入れてあった。(後略)〉
「鼻眼鏡」で有名な美男子。ダンス教室の女性たちにもてるが、女嫌い。
引用文は適宜新字・新かなに直した。
(平野)